トルコ:自宅での就学前教育で、小学校での学習への第一歩を

2022年2月21日 シャンルウルファ県(トルコ)発

UNICEF Turkey
2022年2月21日
自宅での就学前教育を受けるイスマイールくん。
UNICEF/UN0509098/Karacan

2022年2月21日 シャンルウルファ県(トルコ)発

アル・ムスタファ一家がシリアのアレッポの自宅からトルコのシャンルウルファ県に避難して、9年が経ちます。母親のハンゼさん(40歳)は、家族で国境を超えるために5、6日路上で過ごし、安全な地への道のりには多くの困難に直面したと話します。

ハンゼさんは、マムードさん(20歳)、イブラヒムくん(17歳)、ユスフくん(14歳)、サファさん(12歳)、メーヴェさん(12歳)、ミライさん(10歳)、そして末っ子のイスマイールくん(5歳)の7人の子どもの面倒をみています。父親のアハマドさんは日雇い労働をしており、住んでいる地域で見つかる仕事は何でもこなしています。「仮設の家で暮らしています。」と、ハンゼさんが語ります。

「トルコに着いた当初は、経済的な理由で一番年上の子どもを学校に通わせることができませんでした。」と、ハンゼさんが話します。そのため、ハンゼさんは自宅を基盤とした乳幼児教育プログラムの恩恵を受けている、末っ子のイスマイールくんの教育をとても大切にしています。2021年、このプログラムで2万人以上の子どもたちに支援を行い、そのうちの1万8,000人以上が3歳から5歳のトルコ人や難民の子どもたちです。このプログラムでは、言語や運動能力の発達を通して、子どもたちがトルコの公立学校に入学するための準備をできるようにしています。

就学前教育の支援を行うチームは、戸別訪問で家族にプログラムの情報を提供し、教育や保健ケア、そのほかの公的サービスへのアクセスが困難になっている家庭を特定します。

ハンゼさんは、「このプログラムに参加する前、イスマイールはほとんど道端で遊んでいて、あまり家で過ごしていませんでした。今ではアクティビティの日を待ちわびていますし、習慣になっています。以前は知らない人がいると恥ずかしがっていましたが、今では人見知りを克服して、来客があると、よく話をするようになりました。」と話します。

イスマイールくん。
UNICEF/UN0509095/Karacan

就学前教育を行うゼリハ先生は、7週間にわたってハンゼさんの家を訪問をしています。「イスマイールくんはいつも外で遊んでいたので、初めて訪問した時には鉛筆の持ち方を知りませんでした。今では、鉛筆をきちんと持つことも、数を数えることもできます。色も理解できるようになりました。まだ7週目ですが、絵も上手に描けるようになりました。とても上達しましたよ。」ゼリハ先生が話します。

イスマイールくんに自宅での就学前教育で学んだことを尋ねると、「絵の描き方と、数の数え方を勉強したよ。」と教えてくれました。ゼリハ先生は、「数字や形、概念を学ぶとき、いつもトルコ語ではどうやって言うのか質問を受けます。イスマイールくんは、言葉にとても興味があるんですよ。」と付け加えました。

先生、お母さんと就学前教育を受けるイスマイールくん。
UNICEF/UN0509092/Karacan

ゼリハ先生は、最初はイスマイールくんとのコミュニケーションは難しかったと振り返ります。「お母さんが一緒に参加してくれたおかげで、イスマイールくんは人見知りを克服することができました。例えば、新しい数字を教える際には、『お母さんと一緒に言ってみよう。』と話しかけるのです。一人ではないと思うと、より自信が持てるようです。そしてこの数週間、イスマイールくんとの距離も縮まってきました。」

イスマイールくんにおとなになったら何になりたいかと尋ねると、「警察官になりたい。悪い人を捕まえるんだ。」と笑いながら話してくれました。

自宅での就学前教育は、主に次の3つの要素で構成されています。新型コロナウイルス感染症のパンデミック中も子どもたちが自宅でできる活動が載っているアクティビティブック、子どもの発達に関する母親の認識を向上させるための自宅を基盤とした教育プログラム、父親も子どもたちへの読み聞かせができるようにするための父親教育プログラムです。

子どもたちはアクティビティブックを使って、家族と一緒にゲームをしています。このアクティビティがどのように家族のコミュニケーションを深めるかを説明しながら、ゼリハ先生が次のように付け足しました。「子どもたちは道で遊ぶ代わりに、提供された教材を使って、自宅でゲームを作ることができます。」

家族全員が、イスマイールくんの教育に大きな関心を寄せています。母親は就学前教育のセッション中にイスマイールくんが描いた絵を集めて壁に飾り、兄弟はアクティビティブックを使って一緒に楽しく遊んでいます。

自宅学習の様子。
UNICEF/UN0509090/Karacan

毎週行われる母親を対象にしたプログラムでは、健康的な食事やゲーム、コミュニケーションなどの幅広いトピックが含まれた子どもの発達に関する情報が提供されます。ゼリハ先生がその日の教材について母親に説明し、後で読み直すことができるように、トルコ語と英語のメモを渡します。また、母親たちには、その情報を親せきや近所の人たちにも共有するように勧めています。

イスマイールくんの自宅学習の様子。
UNICEF/UN0509096/Karacan

父親教育プログラムの一環として、毎週の家庭訪問の際には、絵本と説明書が父親に提供されます。「イスマイールくんのお父さんは教育を受け続けられなかったことを悔やんでおり、息子の就学前教育への参加にとても興味を持っています。お父さんは、イスマイールくんに丁寧に読み聞かせをしていますよ。」とゼリハ先生が話します。

自宅で行う就学前教育プログラム。
UNICEF/UN0509099/Karacan

自宅で行う就学前教育プログラムは、日本政府や米国人口難民移民局の資金協力のもと、UNICEFと南東アナトリア開発計画地域開発管理機関、トルコ開発財団のパートナーシップを通じて実施されました。このプログラムは、トルコ南東部の難民が多く暮らす11県のシリア難民の子どもたちを対象に行われています。

 

【関連ページ】

日本政府の支援によるトルコでのUNICEF支援事業

トルコ:父親向け教育プログラムを通じて、子育てに関する意識を変革

トルコ:センちゃんの色とりどりの世界―パンデミック下も自宅で行われる就学前教育

トルコ:就学前教育で、子どもたちに素晴らしい学習のスタートを