パキスタン:学習センターで学ぶ少女、コミュニティのCOVID-19との闘いを支える
2022年3月18日 ゴトキ(パキスタン)発
2022年3月18日 ゴトキ(パキスタン)発
「人々は新しいことを恐れ、変化を嫌がる傾向があります。」と、パキスタンの南東部シンド州ゴトキ県カディルプール村の人口密集、ブッタ・モハラで暮らす15歳のフィルドス・ブットさんが語ります。
「当初、コミュニティの人々は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重要な感染予防策を守ることを拒んでいました。そしてその後、新型コロナワクチンの接種も拒否していました。」と、フィルドスさんは話します。
ブッタ・モハラには約150世帯が暮らしており、ほとんどの男性は農業や建設業に従事しています。フィルドスさんは、日本政府の資金協力や国際協力機構(JICA)との連携によって、UNICEFがシンド州学校教育・識字局の支援を得ながら設置した非公式基礎教育センターで学ぶ12歳から16歳の30人の生徒の一人です。
狭い泥道と排水溝の迷路の中にあるこのセンターは、この貧しいコミュニティで唯一の学習施設であり、希望の光となっています。
センターの教師ハビブラさんは偶然にもフィルドスさんの父方の叔父であり、ここで学ぶ10代の少女や少年たちは、カリキュラムに含まれる保健や衛生に関する授業に常に高い関心を持っています。2020年はじめにCOVID-19のパンデミックが世界中で急速に広まると、授業を指導するソーシャル・オーガナイザーは、COVID-19の感染予防策について伝え始めました。

6人兄弟の長女で、そのうちの3人と一緒に勉強しているフィルドスさんは、家に帰るとすぐに自分が学んだことを家族に教えました。やがて彼女は、この情報をもっと広めようと決心しました。
「みんなの安全が守られるまで、誰も安全ではありません。非常事態には特別な行動が必要です。学校がロックダウンによって閉鎖された後、私は戸別訪問をして他の家族にCOVID-19のことを伝えました。」と、フィルドスさんが説明します。
COVID-19の重要な感染予防策を遵守するように村人たちを説得するのは、容易なことではありませんでした。当初、人々はフィルドスさんが伝えた情報に耳を貸しませんでしたが、彼女は諦めませんでした。
周囲の村々でCOVID-19に感染して重症化した人たちがいることが知られるようになってから、彼女の言葉に耳を傾ける人たちが増えてきました。
数カ月にわたる閉鎖の後、パキスタンの学校が少しずつ再開され始めました。フィルドスさんの叔父で教師のハビブラさんは、UNICEFが支援する学校の安全な再開に関する研修に参加し、学校で生徒の安全を確保しながら授業を再開する方法を学びました。センターが再開したとき、フィルドスさんは、すべての生徒がCOVID-19の感染予防策をとることができるよう、叔父さんをサポートしました。

2021年3月、フィルドスさんは、シンド州北部の都市カシュモアで暮らす年配の母方の伯父から、初めてCOVID-19のワクチンについて聞きました。彼女の家族を訪ねた伯父が、自分がワクチンの接種を受けたばかりであることを告げたのです。
「COVID-19は、だれにとっても衝撃的なものでした。ワクチンの話を聞いて、とても安心しました。パンデミックがもうすぐ終わるかもしれない、という希望が湧きました。」と、フィルドスさんが話します。
パキスタンにおけるCOVID-19のワクチン接種活動は、UNICEFの支援を受けて連邦政府と州当局が主導しており、当初は高齢者のみを対象としていました。フィルドスさんはもう一度、コミュニティの高齢者に予防接種を受けるように促すため、一軒一軒家を訪ねました。毎日何軒もの家庭を訪問しましたが、コミュニティの人々の強い抵抗に遭い、追い返されるばかりでした。
COVID-19ワクチンに関する誤った情報がソーシャルメディア上で広がっており、コミュニティの年長者も若者も、非常に懐疑的でした。COVID-19のワクチンで死に至るという偽りの噂や、奇妙な陰謀説が村を駆け巡っていたのです。中には、ワクチン接種を呼びかけるのをやめさせようと、フィルドスさんを叱りつける人さえいました。
「コミュニティにおけるワクチンへの反応は、とてもがっかりするものでした。ポリオワクチンと同じように、COVID-19のワクチンも有益なものだと説明しようとしましたが、効果はありませんでした。」と、フィルドスさんは話します。
フィルドスさんは、代わりに身近な親戚に働きかけることにしました。父方の叔母であるゼブニサさんはワクチン接種の対象者だったので、フィルドスさんは彼女にワクチン接種を受けるように促そうとしました。叔母の不安を取り除くため、フィルドスさんはカシュモアにいるワクチンを接種した叔父と電話で話をできるようにしました。その努力が実り、ゼブニサさんはその翌日にCOVID-19のワクチンを接種しました。これをきっかけに、コミュニティの他の人々も徐々に彼女の後を追うようになったのです。

そして数カ月の間に、政府はワクチン接種対象者年齢を引き下げました。
「ついに12歳以上の誰もが予防接種を受けられると発表されたときは、とても嬉しかったです。予防接種の担当者たちがコミュニティを訪れた際に、すぐに接種しました。このコミュニティでは、10代の若者の間で初となるワクチンの接種でした。友達も予防接種を受けましたよ。」と、フィルドスさんが語ります。
フィルドスさんの努力のおかげで、センターのすべての生徒が少なくとも1回のCOVID-19ワクチンの接種を受けました。
フィルドスさんの父親のナスルラ・ブットさんは農業をしており、自身は8年生までしか勉強していませんが、「娘は決してあきらめないので、逆らうことはできないんです。」と、よく冗談を言います。
「センターで教育を受けたことで、フィルドスは正しいことを主張し、発言する力を身につけました。まだ若いにもかかわらず、ロールモデルになっていますよ。」と、ナスルラさんは言います。
ナスルラさんは、カラチの外資系企業の工場で働いた際、教育の大切さを実感しました。
「50人いる同僚の中で、高校を卒業していないのは私一人でした。契約期間が終わった時、同僚の何人かはよりよい契約に切り替わったにもかかわらず、私の契約は更新されませんでした。家に帰って妻に、『私のように社会で恥ずかしい思いをしないように、子どもたちには教育を受けさせなくてはいけない。』と話しました。」

ナスルラさんはすぐに、当時コミュニティにあった小学校3年生まで学べる学校に、フィルドスさんと彼女の兄弟を入学させました。勉強のために地域外まで通うことは安全ではないと考えられていたため、フィルドスさんと彼女の兄弟は3年生まで勉強を終えた後に退学せざるを得ませんでした。日本政府からの寛大な援助により、UNICEFがシンド州学校教育・識字局と協力してブッタ・モハラに非公式基礎学習センターを開設したことで、子どもたちは勉強を再開することができました。
「センターは、地域社会のサポートによって成り立っています。教師はその地域のコミュニティに属しているので、子どもたち、特に女の子を入学させるために親を説得する力となっています。私たちは、持続的かつ長期的な成果を達成できるよう、コミュニティ内でオーナーシップを育めるようにしています。」と、シンド州で活動するUNICEF教育専門官のレハナ・バトゥールは語ります。
これまでに、日本政府の資金協力とJICAとの連携によって実施された「非公式教育強化計画」プロジェクトの下、UNICEFはシンド州学校教育・識字局からのサポートを受けて、州内全域で150のセンターを設置しています。
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