チャド:新しい人生への希望-ぜい弱な若者たちの自立を支える職業訓練
2023年2月28日 チャド発

2023年2月28日 チャド発
教室からは、機械の音やハサミの音、布が擦れ合う音が聞こえてきます。みんな静かに、それぞれの課題に集中して取り組んでいます。チャド南部のマンドゥル州モイサラ地区で生まれたメリッサ・ウッスムリさん(15歳)は、若者に裁縫や大工作業の職業訓練を行うセンターに通っている、23人の生徒の一人です。
「母親のことは何も知りません。父親は私が10歳のときに亡くなりました。」と、メリッサさんが話します。父親の死後、メリッサさんは叔母に育てられました。15歳になると、叔母一家から、これ以上学校に通わせる余裕がないと告げられました。数カ月間絶望の日々を過ごしたメリッサさんに、希望をもたらす話が舞い込んできました。
「裁縫の教室に通わないかという話が来たときは、本当に嬉しかったです。学ぶための新しいチャンスが巡ってきました。服を作ってお金を稼いで、また学校に通えるようにしたいです。」

日本政府が支援する社会・職業統合プロジェクトの一環として、モイサラ商業訓練センターでは、難民やホストコミュニティのぜい弱な若者や若い女性に支援を行っています。
マンドゥル州では、4カ所のキャンプに1万9,000人以上の中央アフリカ共和国からの難民が暮らしています。これらの難民の流入により、若者の失業や職業訓練の機会の不足が深刻化しています。UNICEFはパートナーNGOと協力し、これらの差し迫った問題の解決策を見出すためのプログラムを行っています。
職業訓練センターの生徒は、ジェンダー省、国連機関、NGOの代表で構成される運営委員会によって選ばれます。主な選定基準に弱い立場に置かれる若者が挙げられ、大半の生徒が難民や孤児、シングルマザー、ジェンダーに基づく暴力の被害者です。

なかには、卒業証書のないまま学校を辞めてしまった人や、全く学校に通ったことがない人もいます。そのため、将来の職業的な見通しを立てられずにいます。メリッサさんが話すように、半年間で裁縫や大工仕事を学ぶことで、若者たちが自立する機会を得て、新しい生活に希望を持つことができます。「裁縫で学業を再開するためのお金を手にできたら、子どもや女性の権利を守る仕事をするのが夢です。」と、メリッサさんは語ります。

7週間の訓練で、メリッサさんは既にいくつかの技術を習得しました。「ミシンの設定方法や操作方法、簡単な服の作り方を学びました。今着ているブラウスも、自分で作ったんですよ!」と、メリッサさんが満面の笑みで話します。

「メリッサさんは呑み込みが早く、好奇心旺盛です。半年の訓練で、生徒たちは男性用と女性用の裁縫の基本を習得します。研修終了時に生徒たちに道具キットを提供するという方針が、特に素晴らしいと思います。彼らの自立を後押しすることができます。」と、センターの訓練士のマスラ・ヌゲドゥマジさんが語ります。
メリッサさんはこれまで裁縫の職に就こうと思ったことはなかったものの、この職業訓練が夢を叶えるための一助となることを願っていると話します。一方、彼女の友人のマジレム・チャンセラさんは、いつも仕立て屋になることを夢見ていました。チャンセラさんは1年前に中央アフリカ共和国から避難し、モイサラから35キロほど離れた場所にあるゴン難民キャンプで暮らしています。外部からのサポートを得ずに20歳で二人の子どもを育てるチャンセラさんは、この職業訓練は、自分の人生を切り開き、ずっと熱意を注いできた分野で仕事をするチャンスだといいます。

チャドで生まれたメリッサさんと難民のチャンセラさんは、難民とホストコミュニティの平和的な共存を促進するため、開発プログラムを共生を図る機会にするという、チャド当局やパートナーの意志を体現化するものです。メリッサさんはモイサラで、チャンセラさんはゴン難民キャンプで、裁縫のビジネスを始める予定です。プロジェクトの一環として、生徒たちはミシンや机、椅子、アイロン、ハサミ、布を受け取る予定です。
プロジェクトの責任者であるジゼル・ジムトイデさんは、より幅の広い職業訓練を提供したいと考えています。「起業家精神、マーケティング、財務管理などの分野も訓練プログラムに加えたいと思っています。」
日本政府の支援で、UNICEFはマンドゥル州とモエン・シェリー州の弱い立場に置かれ、学校に通っていない少女41人を含む80人に、これらの職業訓練を提供しました。UNICEFは若者たちがこのような短期職業訓練を経て収入を得る活動に従事できるようになることで、彼らの自律性や経済的な自立を促進させ、自らの人生を切り開く手段を得る手助けをしています。
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