ウクライナ:攻撃から逃れて地下鉄に避難した母親、子どもを守るための決断

2022年4月22日 リヴィウ(ウクライナ)発

UNICEF Ukraine
2022年4月22日
ウクライナ:攻撃から逃れて地下鉄に避難した母親、子どもを守るための決断
UNICEF/UN0618977/Pashkina

2022年4月22日 リヴィウ(ウクライナ)発

「いろんな音が聞こえました。廊下に出て地面に伏せるには3秒ぐらいしかないと思いました。」ジーナさんが1歳半になる娘のアリスちゃんと夫のセルギーさんと避難したときのことを思い出しながら語ります。「1年分ぐらいの時間のように感じました。」

わずか数分のうちに、ジーナさんの自宅は壊滅的な被害を受けました。

ジーナさん一家はその日の攻撃ですべてを失いましたが、アパートの分厚い壁に守られて、命を失うことはありませんでした。ジーナさんとセルギーさんは、娘のアリスちゃんに覆いかぶさり、体を張って守ったと言います。

アパートの窓は完全に割れて砕け落ち、氷点下の気温にさらされ、床には散乱したガラスが足首の高さまで積もっていました。しかし、その地域への爆撃は12時間以上続き、移動には危険が伴いました。

「翌日、私たちはハルキウ(ハリコフ)の地下鉄に行きました。」と、ジーナさんが語ります。「そこで32日間、夜を明かしました。」自然光が入らず、人々が少しでも明るさを取り戻そうと集めた黄色い花以外、外の世界の気配をほとんど感じることのできない地下鉄が、ジーナさんや家族、そして何千人もの人々の家となりました。

ジーナさんは、「あらゆる場所にチューリップを植えました。暮らす場所は、快適で、自宅のような場所にしたいですからね。」

地下鉄でのボランティア活動
寒く埃っぽい、人でいっぱいの地下鉄での生活は、心身ともに健康でいることは困難です。さらにジーナさんを追い込んだのが、アリスちゃんは既に二度のがん手術を受け、非常にぜい弱な状態だったことです。

「外に出られませんでした。」ジーナさんが語ります。「爆発のときのことをフラッシュバックのように思い出すのです。あのような出来事は人を変えてしまいます。同じではいられません。」

ジーナさんは、娘や地下鉄に身を寄せる子どもたちのためにも、前向きに生きると決めたと語ります。自宅を失い、地下鉄の駅に暮らし、自分や家族の健康を守るために闘わなくてはいけない状況下に置かれ、メンタルヘルスへの影響は避けられませんでした。しかし、ジーナさんは地下に避難している子どもたちや他の家族の力になりたいと考えていました。

「UNICEFのスタッフから電話があり、ボランティアで英語を教えることに興味がないかと聞かれました。」とジーナさんが話します。UNICEFの現地パートナーには、地下鉄の駅に避難している子どもたちを支援するため、乳幼児期の発達やレクリエーションのキットを届けられました。このキットのおかげで、ジーナさんのようなボランティアが子どもたちのためのゲームや非公式な授業、心のケアを行うことができました。この支援は、爆撃から逃れた人々が身を寄せる、ハルキウの何十もの地下鉄の駅で行われるようになりました。

Courtesy of Zina
Courtesy of Zina

「とても助かりました。おもちゃがあったので、人々がボランティアに参加してくれました。駅には何千人もの人が身を寄せていますが、家族のように力を貸してくれます。人々の距離が縮まっている様子を感じることができ、とても嬉しかったです。子どもたちはまだ幼く、遊んだり、授業を受けたりすることが大好きなんです。」ジーナさんが付け足します。

健康状態の悪化と西部への移動
しかし、アリスちゃんへの負担は大きくなっていきました。「アリスは歩けなくなりました。とても疲れていて、体調がよくありませんでした。」と、ジーナさんが話します。この時、彼女は比較的安全な地下鉄の駅を去り、アリスちゃんと一緒に助けを求めるという難しい決断を下しました。地上の惨状に直面し、これから始まる旅に不安を抱えながら、ジーナさんはウクライナ西部のリヴィウを目指しました。夫のセルギーさんは、両親の世話をするために地下鉄の駅に残りました。

東部から避難する何千もの家族にとって重要なルートであるクラマトルスクの鉄道駅が攻撃を受けたというニュースを耳にして、西部へ向かう旅のストレスはさらに大きくなったとジーナさんが話します。しかし、ジーナさんとアリスちゃんは、何事もなく比較的安全にリヴィウまでたどり着くことができました。

ウクライナ西部リヴィウの小児病院で、アリスちゃんが眠るベッドの横に立つジーナさん。
UNICEF/2022/Moskaliuk
ウクライナ西部リヴィウの小児病院で、アリスちゃんが眠るベッドの横に立つジーナさん。

アリスちゃんは現在、リヴィウにある小児病院でケアを受けており、ジーナさんは近くで生活を送っています。「最高の治療を受けています。病院のスタッフはみんな素晴らしく、自宅に戻ったかのような気持ちになります。」と、ジーナさんが語ります。

UNICEFはリヴィウをはじめとする都市の小児病院に、手術器具や救急セット、医療物資など、命を守るための機材を配布しています。これらの物資は、子どもの犠牲者が増えるにつれ、地域の施設にかかる負担を軽減するために必要不可欠です。

「私の仕事は、娘のために明るい母親でいることです。」ジーナさんが語ります。「アリスには元気でいてもらわなくてはいけませんから。」

ウクライナにおけるUNICEFの子どもの保護支援は、日本政府やデンマーク、エストニア、ドイツ、イタリア、スイス、米国政府、欧州連合による寛大なご支援によって可能となりました。

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日本政府はウクライナと周辺国におけるUNICEFの人道支援活動に対し、合計2,420万米ドルの支援を供与しました。

危機の影響を受ける新生児や母親を支援するため、UNICEFは日本政府の支援で衛生用品や離乳食、衣類などの最も必要とされている物資が入った支援キットを配布。2022年5月には、5,000個以上が、キーウやリヴィウ、オデーサの産科病院に届けられました。

UNICEF Ukraine/2022
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