シリア:紛争の傷を乗り越え、教育を続ける12歳の少女
2022年3月18日 デリゾール(シリア)発

2022年3月18日 デリゾール(シリア)発
ローラさんの人生が一瞬にして変わったのは、2013年のことでした。3歳だったローラさんが両親と一緒にシリア北東部のデリゾールにあるハトラ地区の自宅近くの薬局にいたとき、店に爆弾が落下したのです。両親は亡くなり、ローラさんは足と腕に大けがを負いました。
「ローラは見知らぬ人に助け出されて、病院に運ばれました。」と、叔父が語ります。当時、機能している最寄りの病院は48キロも離れていました。医師は、ローラさんの親せきが病院に到着する前に、彼女の足を切断する決断を下さなくてはいけませんでした。
その後まもなく、彼女は叔父の家で一緒に暮らすようになり、それ以降、叔父が彼女の面倒を見ています。ローラさんは銃弾の破片で負傷した腕や手を何度も手術し、回復まで1年を要しました。
しかし、この出来事は目に見える肉体的な傷より、はるかに深い傷を残しました。「あの後、何日も話すことができませんでした。」当時はショック状態だったと、ローラさんが説明しました。
暴力は収まることなく、ローラさんは叔父一家と一緒に自宅から避難をせざるを得ませんでした。そして5年間、住処を転々としました。度重なる移動で、彼女の恐怖や喪失感は消えることがありませんでした。

2018年、暴力が収まると、一家は故郷のハトラに戻りました。そして、叔父の妻がUNICEFが支援する「カリキュラムB」プログラムについて耳にしました。「カリキュラムB」プログラムは、2学年分を1つにまとめ、子どもたちが学習の遅れを取り戻すことができるように支援する加速学習プログラムです。叔父の妻は、当時8歳だったローラさんにこのプログラムに参加するように勧めました。紛争が起こり、ローラさんはそれまで一度も学校に通ったことがありませんでした。
「初めて学校に行ったとき、ローラはとても苦労しました。障がいのせいで、他の子どもたちにからかわれることもありました。」と、叔父さんが話します。しかし、ローラさんは家族の支えをもとに、前へ進むことを止めず、学校に通い続けました。
昨年、叔父はローラさんを近所のUNICEFが支援するコミュニティセンターに登録しました。このセンターは、教育支援や子どもの保護サービスを提供しており、ケースマネージャーが個々のニーズを満たし、学習を進めるためのサポートを行っています。
「このセンターに通い続けています。センターのスタッフやケースマネージャーが、私のことを支えてくれますから。」自宅からセンターまで1キロの距離を松葉杖をついて歩き、定期的にセンターに通うローラさん。個人カウンセリングやグループで心理社会的支援を受けるセッションを受けることで、自分に自信を持ち、感情にも対処できるようになりました。「もう一人になりたくないんです。」彼女は叔父の家族と一緒に暮らせることに感謝し、二度と誰かを失う経験はしたくないと言います。
「センターのレクリエーション活動で、ローラは絵を描くことが大好きになったんですよ。」と、ケースマネージャーが語ります。2021年10月、ローラさんは冬服の提供を受け、NGOの支援を受けて首都ダマスカスに行き、義足を手に入れることができました。

叔父さん一家の子育てやサポートがローラさんに大きな変化をもたらし、彼女は自信を取り戻すことができました。
「今では遊ぶこともできます。」と、ローラさんが話します。彼女は現在、UNICEFが支援するコミュニティセンターで7年生の補修クラスに通っており、大学でアラビア語を勉強するため、教育を続けたいと考えています。
日本政府やカナダ政府、韓国、ドイツ復興金融公庫を通じたドイツ連邦経済協力開発省の支援により、UNICEFは2021年以降、デリゾールの9,300人の子どもたちにさまざまな保護サービスを提供してきました。この支援には、心理社会的支援や、爆発物のリスクに関する啓発活動が含まれています。また、個々のニーズに対応し、さまざまな必要不可欠なサービスを利用することができるようにするため、150人以上の子どもたちがケースマネジメント支援を受けることができました。
そして、「教育を後回しにはできない基金」の資金協力により、UNICEFは1,700人以上の子どもたちに、補修授業や文房具の配付、乳幼児期の教育、自習プログラムなどの教育支援を実施しました。
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