インドネシア:命を守るワクチンの旅 - 遠く離れた島の子どもたちと村人を守る保健員
2022年5月30日 インドネシア発
2022年5月30日 インドネシア発
まぶしい太陽の下、インドネシア東部に位置するマルク州アル諸島の冷たい海が、モーターボートの速度が上がるにつれて穏やかに波打ちます。 ボートに乗っていたのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンが入った大きなクーラーボックスを持った、ワクチン接種コーディネーターのユリアヌス・ヤント・ティヴァンさんです。
その日、ヤントさんは朝5時にベンジナ島の自宅を出て、アル諸島の都市ドボへ向かう船に乗り、ワクチンを受け取って、再び村へと戻りました。このワクチンを手にするための道のりは、たいてい7時間を要します。
この日は、生まれ育ったアル諸島で20年間働くヤントさんにとって幸運な日でした。二児の父親であるヤントさんは、これまで数週にわたって、暗い雲と大雨の下で、波が2メートル近くに達する日々を目にしてきました。
「波がとても高く、水がボートに侵入してきたことがありました。沈みそうになりましたが、船長が一番近い岸に船を寄せ、水を抜くことができました。」とヤントさんは振り返ります。
アル諸島には100近くの低地の島々があり、通勤や通学の手段は、主に徒歩またはボートです。ベンジナの保健センターに勤務するヤントさんと彼のチームは、移動に何時間もの時間をかけて、周辺の島々の住民にCOVID-19や小児疾患から守るためのワクチン接種を行っています。
課題は輸送の問題だけではありません。サプライチェーンのインフラが限られていることで、より公平なワクチンの流通に大きな壁が生じてます。ベンジナでは、午後6時から午前6時までしか電気を使用することができません。そのため、保健センターはワクチンを保存するためのコールドチェーンシステムを稼働させ続けるため、太陽光発電を使う必要があります。悪天候時には、太陽光発電を利用するための十分な日光が得られないため、ヤントさんや彼の同僚は、毎日、朝と午後に自宅から保冷剤を持ってくる必要があります。とても大変な仕事ですが、子どもたちへの愛情が原動力となっています。
「疲れている場合ではありません。赤ちゃんの世話をするように、ワクチンを大切に管理していかなくてはいけませんから。」ヤントさんは語ります。
すべての人が健康に生きられるよう、手を取り合う
マルク州の定期予防接種率は中央政府の目標よりも低く、予防接種の中断は、地域に深刻な結果をもたらす可能性があります。 マルク州を含むインドネシアのいくつかの地域では、障がいにつながったり、命にかかわる可能性のある、ワクチンで予防可能な病気の流行や症例が報告されています。
UNICEFはマルク州などの州において、州および地区の保健所の保健員やスタッフに対して、効果的なワクチン管理に関する支援や研修を行ってきました。 また、ヤントさんのような保健員が、遠隔地でも予防接種サービスを提供できるようにするための技術協力も行っています。
予防接種率を改善するために戸別訪問による予防接種が行われ、モスクや教会、学校などの公共スペースにワクチン接種所が設置されました。マルク州保健局は運輸局やインドネシア海軍などと協力して、島々における円滑な予防接種サービスを提供できるようにしています。
COVID-19パンデミック下にかかわらず、マルク州では完全予防接種率が維持されています。また、COVID-19のワクチン接種は順調に展開され、2022年5月初旬の時点で、マルク州の住民140万人のうち、対象人口の74パーセントが1回目のワクチン投与を受けています。
アル島の住民のほとんどは自宅で仕事をすることができない非正規の労働者です。COVID-19ワクチンが、彼らの安全を守っています。 62歳のアントニウス・ナルワダンさんは、ブースター接種を受けるために、ボートの運賃を支払ってワクチン接種所へ向かいました。
「COVID-19に感染して妻と子どもたちを置き去りにしたくありません。」ナルワダンさんが語ります。「健康に暮らし、子どもの教育費を支払うために働き続けなければいけません。」
COVID-19のワクチン接種で国中の分野横断的な調整が進むことで、将来の予防接種サービスの発展にも恩恵がもたらされることが期待されています。 コールドチェーンが国の多くの地域で改善されている中、政府や国民は予防接種の重要性をこれまで以上に認識しています。
二児の母親であるイルマ・ルムさんにとって、定期予防接種は、子どもたちが安全で健康に成長できるという希望をもたらしました。「予防接種を受けた子どもたちが病気になることはあまりなく、たとえ病気になったとしても、すぐに回復する姿を目にしてきました。ですから、私はワクチンを信頼しています。」イルマさんが語ります。彼女は、ベンジナからボートで30分に位置するガルダカウの保健所に、子どもにポリオの予防接種を受けさせに来ました。
命を守るワクチンを運ぶために、日々課題に直面するヤントさん。訪れる村の人々の温かい歓迎が、彼の肩の荷を軽くします。
「私はワクチンを届け、未来の世代である子どもたちに予防接種を受けさせたいと思っています。そうすれば、子どもたちは国に貢献できるときが来るまで、守られ、健康でいられますから。」とヤントさんは語りました。
インドネシアにおけるCOVID-19の予防接種活動は、COVAXを通じた各国の支援によって支えられています。UNICEFの活動をご支援くださる、日本政府やGaviワクチンアライアンス、豪州やニュージーランド、米国、韓国政府に心よりお礼申し上げます。
【関連ページ】日本政府の支援によるインドネシアでのUNICEF支援事業