トルコ:自宅での就学前教育で、トルコで暮らすシリア難民の子どもに人生の公平のチャンスを

2020年2月26日 トルコ発

UNICEF Turkey
2020年2月26日
シリアから逃れ、トルコに身を寄せるベイカー一家。
UNICEF/Rich

2020年2月26日トルコ発

シリアと国境を接するトルコ南東の地にあるハタイ県で暮らすベレケ一家のもとを訪問するために首都のアンカラを出発したとき、私たちはこの地域が過去数年で最も厳しい寒さに見舞われているとは、まだ気が付いていませんでした。朝早くに就学前教育の先生をしているナーダンと一緒にベレケ一家と会った頃には、私たちの体は寒さで固まっていました。しかし、彼らの暖かい歓迎で私たちの心はすぐに溶けていきました。

シリアで紛争が勃発してから、ベレケ一家を含め、何十万もの家族がトルコに逃れて新たな生活を始めました。2015年、アマラ(31)とアハメド(38)は当時一人娘だったターティルを連れてシリアのイドリブから国境を渡り、隣接しているトルコのハタイ県で暮らし始めました。アマラは激しい紛争の最中、ストレスの多い妊娠期間を過ごしました。そして現在6歳のターティルは、高眼圧症と眼合併症を伴なって生まれてきました。ターティルはシリアで手術を受けたものの、紛争の中、一家にとって保健サービスや医療ケアを受けることは極めて困難でした。現在4歳になるナーシャは、シリアへの旅を母親のお腹の中で経験しました。一番小さな家族の一員であるムハンマド・マリクはトルコで生まれ、現在生後4カ月です。

紛争や避難の影響を受けた難民の子どもたちは、貧困や言葉の壁などの原因で、就学前教育の機会を失う可能性が最も高くなっています。しかし、就学前教育はこれらの子どもたちに大きな恩恵をもたらすことができるものです。

就学前教育は、子どもたちが今後受ける教育で良い成果を収めるために必要不可欠な社会的、認知的、言語的スキルを提供することで、紛争の影響を受けた幼い子どもたちがトラウマを乗り越え、必要不可欠な学習の基礎を築いていく力となります。

難民の親たち、特に母親は、多くの家事を担っていたり、社会的や文化的な規範によって家庭を離れることが困難な場合も多くあります。そこで、日本政府などの寛大な資金協力のもと、UNICEFはパートナー団体と協力して、そうした親をもつ幼い子どもたちが就学前教育の機会を手にすることができるようにするため、自宅で行う就学前教育プログラムを実施しています。

日本政府などの支援により、UNICEFがパートナー団体と協力して実施する就学前教育プログラム。
UNICEF/Rich
日本政府などの支援により、UNICEFがパートナー団体と協力して実施する就学前教育プログラム。

11週間がひとつの周期となっている自宅での就学前教育プログラムの期間中、就学前教育の教員が週に一度子どもの母親や養育者のもとを訪れ、どのようにアクティビティを基盤とした学習教材を使用するのかを教えます。そうすることで、次の訪問までの間、親たちが子どもと一緒にこれらの活動を行うことができます。学習教材はトルコ語とアラビア語の両方でできています。そして母親たちは、栄養や自宅での衛生や安全、ジェンダーに基づく差別や暴力といった重要な問題など、幼い子どもの発達に関する幅広い内容を話し合うことができます。「寒い時期、子どもたちをずっと家にいさせることに苦労することがあります。」と、母親のアマラがドアの近くで靴を脱いでいる私たちに言いました。

「私たちみんな、ナーダンの訪問を楽しみにしています。だって、私と子どもたちの勉強になるというだけでなく、彼らはとても楽しいんですもの。」

手作りの粘土で遊ぶターティルとナーシャ。
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手作りの粘土で遊ぶターティルとナーシャ。アクティビティの学習教材に載っている作り方に沿ってアマラが手作りした。

ベレケ一家は近所の人から自宅での就学前教育について耳にし、アウトリーチ・ワーカーによる地域の調査が行われた後、このプログラムに登録しました。

日本政府などの支援を受け、2019年以降、3歳~5歳の2万882人の難民とぜい弱なトルコ人の子どもたちが、335人の就学前教育の教員のサポートによる自宅での就学前教育プログラムを含め、幅広い就学前教育のサービスの恩恵を受けています。

「このプログラムの活動に参加する前は、幼稚園の先生でした」とナーダンが語ります。「子どもが大好きですし、子どもたちの成長や変化を目にし、ほんの僅かだとしても、私がその役に立っていると思うと、とても嬉しいです。」

 

自宅で行うプログラムの利点

自宅で行うプログラムの重要な特徴の一つは、家族が教育や保健ケア、その他のサービスを受けられているかなど、訪問する教員が家族が直面している可能性のある困難を特定できることです。そして、家族に必要な助言を行い、しかるべきサービス機関を紹介することができます。この自宅を基盤としたアプローチは、最も弱い立場に置かれ、社会的に置き去りにされている家族のニーズに適応しており、危機の影響を受ける親たちや子どもが自宅から離れることなく一緒に学び、遊ぶことができる安全な環境を提供することができます。

「私も教員なんですよ。」とアマラが語りました。「私はかつて、音楽を教えていました。子どもたちの学習は学校に通うずっと前から始まっていると、知っています。ナーダンたちの自宅訪問は、先生だった頃を思い出すわ。また生徒に戻ったような気持ちにもなります。学びに終わりはありませんからね。」

母親のアマラがナーダンと毎週行われる教育セッションをしている間、折り畳みベッドで眠る赤ちゃん。
UNICEF/Rich
母親のアマラがナーダンと毎週行われる教育セッションをしている間、折り畳みベッドで眠る赤ちゃん。

親の視点

アハメド(38)はシリアでジャーナリストとして働いていました。シリアに来てからは、タイヤ工場での仕事を見つけましたが、工場が閉鎖されてしまい、仕事を失ってしまいました。現在、臨時雇いの仕事でなんとか家計のやりくりをしています。

「子どもたちの健康や教育、必要なことについて頭を巡らせない父親や母親がいるでしょうか?」アハメドが目に涙をいっぱいにして語りました。「ここに初めてやって来たとき、一番の大きな壁は言葉でした。私たちの娘が幼い頃からトルコ語を学んでいることを、とても嬉しく思います。特にターティルにとって、9月に学校が始まったとき、このプログラムを通して学ぶことで学習がよりスムーズになってくれればいいと思います。」就学前教育と教員の訪問は、ターティルが幼い頃に経験したトラウマを乗り越える大きな力にもなっています。

アハメドは子どもたちに教育を続けさせたいと思っている。
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他の父親と同じように、アハメドは子どもたちに教育を続けさせたいと思っている。

ベレケ一家のもとを去るとき、別れの挨拶としてアハメドが最後に話をしてくれました。

「子どもの頃、将来こんなことになるとは全く思ってもいませんでした。シリアがこのような状態になるなんて。他の子どもたちと同じように、私は素晴らしい日々を夢見ていました。もちろん、この先私たちの生活がどうなるかは、神様しか知りません。でも、私にできることはすべてやり続けるつもりです。そうすることで、子どもたちは夢を持ち続けることができますから。」

ベレケ一家。
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