パキスタン:男の子になって学校に通っていた少女、シャーナズさんのストーリー

2021年9月29日 バロチスタン州クエッタ(パキスタン)発

UNICEF Pakistan
2021年9月29日
カラフルな教室で他の女の子たちと一緒に座る12歳のシャーナズさん
UNICEF Pakistan/2021

2021年9月29日 バロチスタン州クエッタ(パキスタン)発

カラフルな教室で他の女の子たちと一緒に座る12歳のシャーナズさん。昔のことを思い出し、笑顔を見せました。

2年前、シャーナズさんは男の子でいっぱいの教室に、男の子の服を着て座っていました。クラスで唯一の女の子だったシャーナズさんは、勉強するために性別を偽らなくてはいけませんでした。その事実を知っていたのは、たった一人。彼女の父親であり、先生でした。

「私はただ、学校に行きたかっただけなんです。クラスで女の子はたった一人という不安を乗り越え、男の子のふりをして勉強していました。」と、シャーナズさんが語ります。

パキスタン南西部に位置する、バロチスタン州の州都クエッタの郊外にあるハザルガンジの110世帯が暮らすコミュニティで暮らすバラーク・マリ族のシャーナズさん。同州では、78%の女の子が学校に通っていません。

村で唯一読み書きができたのが、シャーナズさんの父親であるミラ・カーンさんでした。ミラ・カーンさんはいつも、二人の娘と二人の息子に勉強をするように励まし、支えてきました。自宅で子どもたちに勉強を教えることもできましたが、シャーナズさんの願いはただ一つ、学校で勉強したいということでした。

ある日、シャーナズさんは、ついにチャンスが巡ってきたと思いました。父親が、村の近くに学校ができると教えくれたのです。

UNICEFの支援を受け、バロチスタン州教育局は、学校に一度も通ったことがない子どもや途中で退学した9歳から13歳の子どもたちに代替的な学習カリキュラムで柔軟的に勉強する機会を提供するため、村に加速学習プログラム(ALP)センターを開校しました。プログラム終了後、子どもたちは正式な教育システムに編入する機会を手にします。

日本政府と国際協力機構(JICA)のご支援のおかげで、バロチスタン州政府とUNICEFは州内の6地区に176のALPセンターを設置し、8,000人の子どもたちが学習の機会を得ました。

レンガと粘土でできた、教室が一つある仮設の建物の前で立つミラ・カーンさん。
UNICEF Pakistan/2021
レンガと粘土でできた、教室が一つある仮設の建物の前で立つミラ・カーンさん。2019年、ミラー・カーンさんはこの建物でALPセンターを開設。後ろにある建物が、教室が二つある、きれいで新しいALPセンター。

当初、シャーナズさんの村の人々は、「女の子は勉強しない文化だから。」と、男の子専用のALPセンターの設置を求めました。そこで、レンガと粘土でできた、一部屋の仮設の建物にALPセンターが設置されました。

ALPセンターには男の子しか入学できないことが分かり、残念ながらシャーナズさんの期待はすぐに崩れ落ちてしまいました。それでも、学校に行って勉強したいという彼女の気持ちは変わりませんでした。

「男の子しか学校に入学できないと分かり、男の子になると決めたんです。」と、シャーナズさんが語ります。

同じようにミラ・カーンさんも、娘は学ぶべきだという強い思いを持っていました。そして、学校で着ることができるよう、娘のために男の子用の服を買ってあげました。

「シャーナズはまだ9歳でしたが、学校に行きたいという気持ちはだれよりも強かったのです。ですから、ムハマド・サリームという、娘が選んだ名前で、男の子として入学の登録をしました。」

ミラ・カーンさん自身がALPセンターの教員だったため、難しいことではありませんでした。

シャーナズさんは2カ月間、ムハマド・サリームとして授業に出席していました。

男の子たちがALPセンターで学ぶなか、シャーナズさんと父親は、教育は女の子にとっても重要だと、コミュニティの人々に訴え続けました。そして二人の努力が実を結び、地域の人々が女の子もセンターに通うことを認めました。

ALPセンターは、すぐに女の子のために授業を始めることを決めました。

約3カ月後、ALPセンターの近くにあった古い建物が修繕され、きれいになった建物で授業を開始。女の子たちも入学しました。

ALPセンターのカラフルな教室に座る、30カ月の加速初等教育コースに通う女の子たち。
UNICEF Pakistan/2021
ALPセンターのカラフルな教室に座る、30カ月の加速初等教育コースに通う女の子たち。卒業後は、正式な教育システムの6年生に編入することができる。

現在このALPセンターには78人の生徒が在籍しており、午前中に48人の男の子たち、午後に30人の女の子たちが、それぞれ4時間の授業を受けています。

「地域の人たちは子どもたちをALPセンターに通わせたいという強い熱意を持っています。特に女の子たちを通わせたいという声が多いです。」と、教育局の州プログラム・チーフであるナキーブ・ ヒルジー氏が語ります。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で学校が閉鎖され、生徒たちの学習にも遅れが見られています。本来ならばALPセンターでの授業を終え、今頃、最寄りの公立学校に編入するはずだったシャーナズさんには、まだ数カ月の授業が残っています。

 

女の子30人と男の子48人の計78名の生徒が在籍しているALPセンター。
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ALPセンターは二部制になっており、女の子30人と男の子48人の計78名の生徒が在籍している。男の子は午前、女の子は午後に学校に通い、それぞれ4時間の授業を受けている。

センターでは最近授業が再開され、生徒たちは、学習を再開し、夢を追うことができると大喜びです。

バロチスタン州の多くの子どもたちにとって、学習加速プログラムは初めて教育を受ける機会です。そして、学校を中退した子どもたちは、再び学びの場に戻り、学習の遅れを取り戻す機会を手にすることができます。ALPセンターで、教育を受ける子どもたちは、より良い未来に向かって歩みを進めることができるだけではなく、学校に通っていない子どもたちにも、機会を手にするための勇気を与えています。