パキスタン:非公式教育がポリオによる障がいのある少年の教育の夢を叶える

2020年3月13日 シンド州ハイルプル郡(パキスタン)

UNICEF Pakistan
2020年3月13日
ショエブと父親のシャバズ・ディノ。
UNICEF Pakistan/Salman Ahmad/2020

2020年3月13日シンド州ハイルプル郡(パキスタン)

パキスタンの多くの10代の若者たちと同じように、14歳のショエブは学校に行って読み書きを学ぶことをいつも夢見ていました。パキスタンでは、この夢は必ず叶うとは限りません。南アジアに位置するこの国では、学齢期の子どもの半数近くである約230万人が学校に通っていません。乳幼児期にポリオに苦しみ、その後歩くことができなくなってしまったショエブのような障がいをもつ子どもにとって、この夢を叶えることはさらに困難になります。パキスタンはアフガニスタンとともに、野生株ポリオの感染が続いている世界で残り2カ国のうちの一つです。

「7歳になるまで、自分の障がいについて考えたことがありませんでした。」とショエブが語ります。「最初に意識したのは、同い年の子どもたちは学校に行くのに、自分は行けないのだと実感した時のことでした。学校が自宅から遠く、歩いて通うことができなかったのです。勉強できないのだと気づいた時が、人生で一番悲しい瞬間でした。」

ショエブの父親のシャバズ・ディノは息子を学校に通わせようとしましたが、毎日学校までショエブを抱えて送り迎えすることはできないと、すぐに思い知らされました。

「常勤の仕事をしていたので、私には子どもを学校に通わせるという父親としての責任を果たすことができませんでした。」とシャバズが語ります。「文房具を買い、自宅での学習を手伝ってあげることしか私にはできませんでした。学校に通うほど効果的ではなかったものの、ショエブはいくらかの希望を持ち続けることができました。」

ショエブは、自身の障がいについては心配していないと話します。彼は家で差別を感じたことは一度もありません。そして、コミュニティで差別を受けることがあっても、気にしないと言います。ショエブは確固たる決意をもって、自宅で一生懸命勉強をしていました。彼には教育なしでは果たせない夢があったので、唯一の気がかりは、もっと学ぶことができる道を見つけることでした。

父親が灯し続けた希望が無駄に終わることはありませんでした。2年前、UNICEFがショエブの暮らすシンド州ハイルプル郡モハラ・ニズマニ村に非公式基礎教育センターを開設し、突如可能性に溢れた世界が現れたのです。

「あまりにも嬉しくて信じられませんでした。」とショエブが話します。「この素晴らしい知らせを伝えに来てくれた先生に、すぐに入学手続きをお願いしました。それからずっとセンターに通っていて、学習が進んでいくのがとても嬉しいです。」

UNICEFはパキスタン政府を支援し、シンド州を含め、パキスタンのあらゆる州で非公式基礎教育センターを開設しています。

国際協力機構(JICA)を通じた日本政府の寛大な支援により、UNICEFはシンド州学校教育・識字局と協力して2019年~2020年にシンド州で330の非公式基礎教育センターを設置しました。通っている生徒の大半は女の子です。

このプログラムは、例え既定の学齢期が過ぎていたとしても、学校に一度も通ったことがない子どもや退学した女の子や男の子がより短い期間で初等教育を習得できるようにする手助けをしており、特に最もぜい弱なコミュニティで暮らす子どもや10代の若者を対象にしています。若者たちはプロジェクトに夢中になっており、設置されたセンターを充実させています。UNICEFは教師の給料や先生と生徒の教材や学習用品が入った「箱の中の学校」、レクリエーション・キットなどの学習教材を提供しています。

このセンターが、起業家になって新しいビジネスを始めるというショエブの夢に可能性をもたらしたのです。彼は、障がいを人生の足かせにしないと、心に決めています。そして、初等教育を終えても学び続け、地元の大学の経済学部への入学を考えています。

「ショエブは算数でクラス一の生徒です。他の子どもたちにも刺激を与えていますよ。」と非公式基礎教育センターのショエブの先生、ゾーラが語りました。

算数の問題を解くショエブ。
UNICEF Pakistan/Salman Ahmad/2020 国際協力機構(JICA)を通じた日本政府の寛大な支援によりUNICEFがモハラ・ニズマニ村に設置した非公式教育センターで、算数の問題を黒板で解くショエブ。

ショエブは生徒たちみんなに好かれており、この勉強しやすい環境が大好きだと言います。

「子どもたちや親に、メッセージを伝えたいです。」ショエブが話します。「まず、すべての親が子どもたちにポリオのワクチンを受けさせてほしいです。この病は治療ができないものの、予防接種で簡単に防ぐことができると知るべきです。それに、子どもに教育を受けさせてほしいです。女の子も、男の子も。」

シンド州で活動するUNICEF教育専門官のアシフ・アビールは、教育は貧困や児童婚を終わらせ、社会や経済の発展を促進させるカギとなると語ります。そのため、非公式教育センターは重要な役割を果たしています。

ショエブにとって、教育は彼の能力を十分に発揮できる、よりよい人生のチャンスを意味するのです。

【関連ページ】日本政府の支援によるパキスタンでのUNICEF支援事業