第94回 東アジア・太平洋地域事務所 ウォルシュ佑依

評価担当官

大学卒業後、日本の総合商社に勤務。その後、NGOや在ミャンマー日本大使館を経て、英国の大学院で開発学を専攻。修了後はNGOで活動し、JPO制度を通じてバンコクの国連常駐調整官事務所、UNICEF東アジア・太平洋地域事務所(現職)に派遣。

ウォルシュ佑依 評価担当官
UN Resident Coordinator in Thailand/2023

評価担当官として、どのような仕事をしていますか?

私はUNICEF東アジア・太平洋地域事務所で評価担当官として、UNICEFが実施する支援事業について、評価プロセスが適切に設計・実施されるよう、専門的な立場から支援・管理する役割を担っています。評価は、多様なデータや情報をもとに分析を行い、事業の成功点や課題を明らかにします。評価の対象は、保健、水と衛生、ジェンダー、教育などUNICEFの幅広い分野に及びます。そのため、各分野の専門官や外部の調査メンバーとチームを組み、私は評価の専門家として、評価の客観性や質を保てるよう、評価プロセスの全体を管理・支援しています。

最近では、東アジア・太平洋地域で10代の女の子を対象としたジェンダーに関する支援プログラムの評価を担当。インドネシアや東ティモールの現場を訪れ、若者や政府関係者へのインタビューやグループディスカッションを通じて現地の人々の声を聴き、データを集める機会にも恵まれました。こうした情報を分析し、報告書として公開することで、UNICEFがより効果的な支援を行えるようにしています。また、評価で指摘された改善点が現場で実際に反映されているかを追跡することも重要な役割です。

東アジア・太平洋地域事務所は、14カ国のUNICEF国事務所を統括し、サポートを提供しています。その中には複数の島国を担当する太平洋島嶼国事務所も含まれるため、実際には27の国と地域をカバーしています。この地域には世界の子どもの約4分の1にあたる約5億5,000万人が暮らしており、経済発展が進む国もある一方で、貧困やジェンダー格差、気候変動など、子どもの健やかな成長に影響を及ぼす課題が依然として残っています。

評価の仕事を通じて、UNICEFの活動を改善し、子どもたちの生活により良い影響を与えられることが、私にとって大きなやりがいです。学生時代、バックパッカーとして開発途上国を旅した際、ドナーのシールが貼られた使われていない井戸を目にした経験などから、援助が一過性ではなく、長期的な成果をもたらすことの重要性を痛感しました。評価の仕事は、現場の声を支援に反映し、持続的で効果的な援助を実現するための重要な役割を果たすと考えています。

東ティモールの子どもたちとグループディスカッションをして意見を聞く様子。
UNICEF EAPRO/2025 東ティモールの子どもたちとグループディスカッションをして意見を聞く様子。

これまでのキャリアについて教えてください。

私が国際協力に関心を持つようになったのは、高校の修学旅行で訪れたベトナムでの経験です。当時、高校2年生で、看護系を目指して理系に進むべきか、文系に進むべきか、自分の進路に悩んでいました。そんな迷いを抱えたまま訪れたベトナムで、物乞いをしている少女を目にしました。教育を受けられず、将来の選択肢が限られているであろうその姿を見て、自分は努力すれば何でもできる環境にいることが、どれほど幸せなことなのかと強く感じました。悩むことはつらいと思っていましたが、悩めること自体が幸せなのだと気づいたのです。この経験から、自分の環境に感謝し、世の中のためにできることをしたいという思いが芽生えました。

大学では1年間休学し、世界各地でNGOのインターンやボランティアを経験しました。卒業後は、ビジネスを通じて開発途上国の発展に貢献したいと考え、日本の総合商社で5年間勤務。その後、日本のNGOに転職し、アフリカでの難民支援やミャンマーでの水と衛生分野の支援に携わりました。さらに、在ミャンマー日本大使館でODA関連業務を担当した後、英国の大学院で開発学を専攻しました。

大学院修了後は、アジアの子どもたちを支援する日本のNGOで働きながら、ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)制度に挑戦。採用後は、タイ・バンコクの国連常駐調整官事務所で、複数ある国連機関が協力して効率的に活動できるよう調整業務を担当しました。JPOとしての2年間の勤務中、次のキャリアを模索していたところ、UNICEFの評価担当官の募集を見つけました。子どものために働きたいという思いと、高校時代のベトナムでの原体験が後押しとなり、応募して現在に至ります。

UNICEFが支援するインドネシアの学校の先生たちにインタビューした際の様子。
UNICEF EAPRO/2025 UNICEFが支援するインドネシアの学校の先生たちにインタビューした際の様子。(左から2番目)

ウォルシュさんには3歳のお子さんがいらっしゃいますが、幼い子どもを育てながら国連で働くことに、難しさは感じませんか?

国連の仕事は多くの場合、数年単位の契約です。そのため、契約が終わるたびに次の仕事を探す必要があり、赴任地も国をまたいで変わることが多いので、家族への負担は決して小さくありません。私自身、JPOとして国連常駐調整官事務所で働いていたときに産休を取りましたが、国連で働いていて感じるのは、誰もが同じように悩みながら働いているということです。キャリアと家庭の両立に「正解」はありません。たとえば、子どもが欲しいと思ったタイミングで、自分がやりたい仕事のまたとないチャンスが訪れたら、どちらを選ぶべきか迷うこともあると思います。

幸い私は良い上司に恵まれ、これまで両立してくることができましたが、女性の場合、子どもを産むには年齢的な制約もあり、悩みはより複雑です。だからこそ、「将来両立できないかもしれないからやめておこう。」と考えるのではなく、その時々で自分の心の声に従い、目の前の選択肢に誠実に、わくわくする方を選ぶことを大切にしてきました。キャリアの途中で、わくわくする対象が仕事ではなく家庭になることもあるでしょうし、数年間は家族のために時間を割き、後に再び国連に戻る人もいます。

確かに大変な面はありますが、人道支援や世界平和に貢献したいという強い思いを持つ人にとって、国連の仕事はとても魅力的です。世界平和のために全力で働ける仕事はそう多くありません。関心のある方には、ぜひ挑戦してほしいと思います。

東ティモールでUNICEFのパートナーのNGOへインタビューをした際の様子。
UNICEF EAPRO/2025 東ティモールでUNICEFのパートナーのNGOへインタビューをした際の様子。(右から2番目)

UNICEFや国連で働くことに関心のある学生や社会人へのメッセージをお願いします。

少しでも興味があるなら、「自分にはできないかもしれない。」と諦めず、まず行動してみてください。私自身、学生時代から国際協力や子どもの支援に関心がありましたが、国連は選択肢に入っていませんでした。テレビで見る遠い世界のように感じ、無意識に自分には無理だと思っていたのだと思います。

総合商社で国際的な大規模プロジェクトを担当する中で、もっとできることがあるかもしれないという自信が芽生え、退職後はJPO試験に向けて必要な準備を一つずつ進めました。学生時代から興味に従って行動し続けた結果、自然と今のキャリアにつながったと感じています。挑戦したもの勝ちだと思います。もちろん全員が国連に入れるわけではありませんが、無意識に選択肢から外してしまっている人も多いはず。自分の気持ちに耳を傾け、行動し続けることが大切だと思います。

国連で働くには専門性が重要だと言われます。私は国連を視野に入れたのは比較的遅かったので、キャリアの中で得た専門性と目指す分野が必ずしも一致しないこともありました。私のこれまでのキャリアは一つのセクターだけに特化してきたわけではありませんが、複数の分野で培った知見を組み合わせて、分野横断的な視点から物事が見れることが自分の強みだと感じています。例えば、皆さんも今後キャリアを築く中で、自分が目指す分野と、目の前に訪れた仕事のチャンスが異なることもあるかもしれませんが、それはよくあることです。キャリアの築き方には決まった正解がなく、どの経験も一生懸命前向きに取り組めば、後になって必ず意味を持つと感じています。

私はその時々で自分の心に正直に、納得できる選択を積み重ねながらキャリアを積んできました。国連常駐調整官事務所にJPOとして採用された際には、「あなたの幅広い経験が国連機関の調整に役立つ。」と言っていただきました。若いうちから専門性を磨くことはもちろん大切です。学生の頃から国連を視野に入れている方は、ぜひ専門性を積み重ねてください。しかし、途中から国連に関心を持った場合でも、これまでのキャリアで培った強みを生かせる場面は必ずあります。それが何なのかを考え、行動することが大切だと思います。