第89回 モーリタニア事務所 稲垣葉子

パートナーシップ専門官 

大学で国際関係学を学んだ後、マダガスカルでJICA海外協力隊として活動。英国で開発学の修士号を取得し、国際機関でのインターンや大使館勤務を経て、JPO制度を通じてUNICEFに入職。2022年から現職。

UNICEFのTシャツを着た藤森さん
UNICEF/2025

現在、どのような仕事をしていますか?

現在はUNICEFモーリタニア事務所で、資金調達やパートナーシップ構築を担当しています。UNICEFの活動は、各国政府の任意の資金協力や民間企業や個人の募金によって支えられており、2023年におけるUNICEFの資金の約7割が政府等の公的機関、約2割が民間企業、基金および個人からの寄付金で成り立っています。

私は緊急・人道支援を含むモーリタニア国内で実施するUNICEFの活動のため、政府や基金、企業などとのパートナシップ構築や資金を調達するための業務を行っています。具体的には、UNICEFへの支援を検討しているドナーとUNICEFの優先事項をすり合わせた事業計画書の作成や合意文書の締結に向けた調整、報告書のとりまとめなどを行っています。大規模なプロジェクトになると、他の国連機関やUNICEF本部や地域事務所と協力しながら調整や資金調達を行います。また、UNICEFに直接送られる資金のみならず、企業のCSR(企業の社会的責任)の取り組みを通じて子どもの権利の保護のための活動へ使われる資金を増やすようアドボカシーを行うことも業務の一部です。これは子どもの権利の保護は決してUNICEFの持つ力だけで達成し得ることではなく、資金的にも現地政府や民間部門を含めた様々なアクターの貢献があって初めて可能になるからです。 

計画書の立案は、ドナーのニーズを正確に把握してきめ細やかな調整を行う必要があります。そのため、保健や教育など、支援分野の担当部署と連携して、事業の目的や活動内容、期待される成果などの情報を収集して提出します。資金協力者に対する明確な計画書の提示や報告は重要ですが、報告義務や送金のスケジュールなどをパートナーと交渉し、UNICEFの基準に合うよう本部や地域事務所の協力を得ながら交渉することも必要です。支援分野の専門性を持つ職員が事業の中核部に時間を割き、事業を効果的・効率的に行えるようにサポートするのもパートナーシップ専門官の役割の一部だと考えています。 

モーリタニアでは、気候変動や近隣国からの難民流入など、子どもたちの生活に大きな影響を与える課題が複合的に存在しています。鉱物資源の輸出などで高い経済成長が見込まれるものの、子どもの6割以上が多次元の貧困状態で暮らしています。保健・栄養、教育、子どもの保護、水と衛生、社会保障といった公共サービスへのアクセスは限られており、都市部と農村部および男の子と女の子間での不均衡も依然として大きいです。また、国際的な注目度が比較的低く、支援の機会が限られているとされる国の一つであり、そうした中でドナーの関心と現場のニーズを丁寧に結びつけ、効果的な支援へとつなげていく「つなぎ役」としての役割に、大きな責任とやりがいを感じています。

在ギニア日本大使館で勤務していた際、日本の補正予算を通じてUNICEFが支援する保健センターを訪問した際の様子。
UNICEF Guinea/2022 在ギニア日本大使館で勤務していた際、日本の補正予算を通じてUNICEFが支援する保健センターを訪問した際の様子。

これまでのキャリアと、UNICEFで働こうと思ったきっかけを教えてください。 

国際協力の現場に初めて長期で関わったのは、大学卒業後にJICA海外協力隊としてマダガスカルに派遣されたときでした。農業学校に配属され、地域の農家の生活環境の改善や収入向上支援、女性たちに対する栄養講習など、地域に根ざした活動に取り組む中で、マダガスカルで暮らす人々が直面する課題への理解が深まりました。 

帰国後は、国連工業開発機関(UNIDO)でインターン後、英国で開発学の修士号を取得し、マダガスカルでの経験を基に公衆衛生改善を目指すソーシャルイニシアティブの設立も行いました。その後、専門調査員として在ギニア日本大使館に勤務した際には、政府開発援助(ODA)に関する業務として、現地政府や国際機関との調整、計画書の確認、外務本省との連絡調整などを担当しました。ドナー側としてUNICEFギニア事務所と仕事をする中で、仕事の質の高さや一緒に仕事をした方のプロフェッショナリズムを感じたことから、次の進路としてUNICEFでの勤務を希望しました。 

その後、ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO) 制度を通じて UNICEFに入職し、ベルギーの欧州連合(EU)連携事務所で欧州委員会人道援助・市民保護総局とのパートナーシップの強化に取り組みました。続いて、UNICEFニューヨーク本部公的パートナーシップ局では日本政府と韓国政府 とのパートナーシップを担当し、政府を代表して国連との調整を行っているそれぞれの国の国連代表部とのニューヨークで開催される政策会議や会合の調整などを担当しました。本部での勤務を経て、次はより現場に近いUNICEF国事務所で仕事をしたいという思いから、モーリタニア事務所への赴任を決めました。 

JICA海外協力隊一環として、マダガスカルの地域住民と一緒に作業をする様子(写真一番右)。
UNICEF Madagascar/2024 JICA海外協力隊一環として、マダガスカルの地域住民と一緒に作業をする様子(写真一番右)。

これまでの仕事の経験は、現在のUNICEFでの業務にどのようにいかされていますか?

これまで、JICA海外協力隊としての草の根の活動や日本大使館でのODAの調整、UNICEF本部でのドナーとのパートナーシップの構築の仕事など、さまざまな角度から国際協力に関わってきました。改めて振り返ると、国際協力の現場は一つの組織や立場だけでは見えないことが多く、異なる立場を経験することで理解が深まる部分があると感じています。たとえば、現場の声やニーズをどう事業計画書に反映させるか、ドナーが重視する点をどのように事業に反映させるか、関係者とのやり取りをどのように円滑に調整するかなど、過去の経験で得た視点やスキルが今の業務に活かされていると感じています。また、様々な文化背景を持つパートナーや同僚と働く中で、自分の「こうあるべき」という固定概念が少しずつ取り払われ、仕事や私生活で困難に直面した際もある程度柔軟に対応できるようになったと思います。もちろん、今でも人間関係に悩んだり、予定通り行かないことでイライラしたりすることはあるので、運動や瞑想などのセルフケアも大切にしています。 

印象に残っているエピソードはありますか? 

モーリタニアでの業務の中で特に印象に残っているのは、着任後すぐに緊急支援の計画書の作成にかかわった経験です。3つの国連機関がかかわる事業で、事業担当チームと協力して必要な情報を集めながら、ドナーと他の国際機関との調整を行いました。特に難しかったのは、ドナーが指定するフォーマットやオンラインの申請システムに沿って、非常に細かい情報や数値を求められた点です。UNICEF の通常の書式とは異なる部分も多く、必要に応じて関係者と丁寧に調整を重ねながら、双方にとって現実的な内容となるよう工夫しました。最終的に無事に計画が承認され、実際に事業を開始できた時は、大きな達成感がありました。また、後にその事業内で支援をしたマリ難民が多く住んでいるコミュニティを訪問し、自分が計画書をまとめた事業が実現し、子どもたちが少しでも安全に生活できている様子を目にした際には大きなやりがいを感じました。

UNICEFの支援現場を訪問し、子どもたちと交流する様子。
UNICEF Mauritania/2024/Bennett UNICEFの支援現場を訪問し、子どもたちと交流する様子。

UNICEFの仕事に関心のある学生や社会人へのメッセージをお願いします。 

私からお伝えしたいことが二つあります。一つ目は、国際機関で働いている人たちは、決して特別な人たちではないということです。私は地方出身で、初めて長期で海外に行ったのも大学時代に交換留学制度を利用したときでした。もちろん、国際機関で働くには修士号や英語力を含む語学力、現場や関連分野での実務経験が求められます。でもそれは特別な経歴ではなく、努力を重ねて得ていくものだと思います。大学時代の交換留学も修士号を取得した大学院も日本学生支援機構(JASSO)の奨学金をいただいて実現しました。英語は主に大学で、現在業務で使用しているフランス語は主にマダガスカルの語学学校で現地の学生と一緒に授業を受けて習得しました。地方に住んでいる方でもアンテナを張って、情報をつかみ、学びや経験をひとつずつ積み重ねていれば、誰にでもその扉は開かれていると思います。  

二つ目は、国際協力にはさまざまな関わり方があるということです。私はこれまで、JICA海外協力隊として現場での活動、日本大使館では二国間協力またはドナーの立場、UNICEF本部ではハイレベルでのパートナーシップ構築業務にも携わってきました。それぞれの立場や組織には異なる役割と強みがあります。たとえば、国際機関には中立性と信頼性を活かして、二国間協力や民間では手が届きにくい課題にも取り組むことができます。一方、民間企業には、スピード感や資金の循環性といった良さがあります。国際協力の現場は多様で、どのキャリアに進むのか、正解は一つではありません。だからこそ、自分にとって何が合っているのか、どんな働き方が自分らしいのかを見つけていくことが大切です。また、国際公務員としての働き方は原則として数年単位での国をまたぐ移動や、医療や教育などの生活に必要なインフラが必ずしも整っていない場所で働くことも必要になるので、自分と家族のその時々の優先事項に合った機関や立場に身を置くことも、長期的に国際協力にかかわる上で自身の課題にも感じています。UNICEFを目指す方も、ぜひ広い視野を持って、さまざまな経験を通して自分自身の道を切り拓いていってほしいと思います。 

 

 

インタビュー後記(インターン デイビス彩) 

稲垣さんが語ってくださった「つなぐ」役割の重要性が、印象に強く残りました。現場のニーズとドナーの期待、関係者同士の間を丁寧に調整しながら支援を形にしていく姿は、まさに国際協力の本質だと感じました。また、青年海外協力隊から本部勤務、そして現地事務所へと、多様な立場を経験してきたからこそ生まれる広い視野にも大きな学びがありました。「特別な人だけが国際機関で働けるわけではない」という言葉は、多くの学生にとって背中を押してくれる力強いメッセージになると思います。自分の道を自分のペースで切り拓く大切さを改めて実感したインタビューでした。