第98回 本部デジタルインパクト部門 藤野太一朗
開発のためのテクノロジー担当官
日本の大学卒業後、大学院にて国際公共政策修士を取得。IT企業に勤務したのち、英国の大学院にて情報システム修士を取得。国際協力機構(JICA)での勤務を経て、2022年よりJPO制度を通じて国連事務総長技術特使室に派遣され、デジタル協力ロードマップの実施を支援。2023年10月よりJPOを通じたUNICEF本部同部門での勤務を経て、現職(ナイロビ駐在)。
2026年2月にUNICEFジンバブエ事務所のウェブサイトで公開された、開発のためのテクノロジー担当官 藤野太一朗が携わった子育て支援アプリの開発に込められた思いをつづった記事です。本プロジェクトは日本政府による資金協力のもと実施されました。記事の最後には、UNICEFの仕事に関心のある若い世代に向けたメッセージも紹介しています。是非ご覧ください。
テクノロジーと子育て:ジンバブエがアフリカの「デジタル育児」革命をリードする理由
ジンバブエの首都ハラレ郊外のグレン・ビュー地区で行われる子育て支援アプリ「レライ・ウムントワナ」の公式ローンチを控え、 UNICEFで開発のためのテクノロジー担当官として働く藤野太一朗は、ソフトウェアについてではなく父親について語りました。
「父親の育児への関わりは、どこであっても難しいものです。しかし、UNICEFで働いている私たち自身も、より良い父親にならなければなりません。」
良い親でありたいという普遍的な思いがこのデジタル・イノベーションの原点です。人を驚かすためではなく、子どもたちを健やかに育てる家族を支えるためにこのテクノロジーが生まれました。
藤野担当官は、UNICEF本部のデジタルインパクト部門に属するデジタル・センター・オブ・エクセレンスに所属し、開発のためのテクノロジー担当官を務めています。各国が子どもたちのためにデジタルツールを活用できるよう支援している藤野担当官にとって、UNICEFが世界各地で展開する子育て支援アプリをアフリカで初めて導入したジンバブエは特別な存在となりました。
このプラットフォームは国際的には「ベボ」という名で知られ、ジンバブエでは「レライ・ウムントワナ(子どもを育む)」という名前で生まれ変わりました。
手のひらに収まる子育て支援
藤野担当官が見せてくれたアプリには、妊娠や栄養、予防接種、早期学習、子どもの発達に関する実践的なアドバイスが色鮮やかに表示されています。親は子どもの身長と体重を記録し、成長の節目を振り返りながら、小児保健・育児の専門家が監修した年齢に応じたアドバイスを受け取ることができます。
「これは単なるアプリではありません。デジタルの子育て支援ツールなのです。子どもに何かあった時、保護者はすぐに、どう動けばいいか知ることができます。」
ジンバブエ版は独自の特徴を持っています。操作画面は緑色で、ジンバブエ国旗の代表的な色のひとつを反映したデザインとなっています。アプリが地域に根ざし、親しみやすく、利用者のコミュニティに受け入れられるものとなるようデザインされました。
藤野担当官は「外国製のアプリにはしたくなかったのです。ジンバブエの親たちが『自分たちのもの』と感じられるようなものを求めていました。」と語りました。
通信環境が不安定な地域では特に重要な機能として、このアプリはダウンロードすればオフラインでも利用できます。また、英語に加え、ジンバブエで使われているショナ語やンデベレ語にも対応しています。オンライン上の膨大な情報に圧倒される家族にとって、この子育て支援アプリは科学的根拠に基づいた信頼できる情報を提供してくれる貴重な情報源となります。
5歳未満児の4人に1人近くが発育阻害に直面しているジンバブエにおいて、信頼できる情報へのアクセスは子どもの将来を左右する重要な要素です。
藤野担当官は次のように付け加えました。「携帯電話の普及率は急速に伸びているため、私たちはそこにチャンスを見出しました。保護者がすでに携帯電話を持っているなら、支援を直接彼らの手元に届けることができます。」
保護者の視点
フルングウェ郡出身のテンダイ・ムロンダさんにとって、このような支援は極めて切実な意味を持っています。
農村部で幼い子どもを育てる保護者は特に、診療所や親戚、SNSなど、必ずしも一貫しているわけではない様々な情報をバランスよく取り入れなくてはなりません。テンダイさんは、信頼できる情報源にアクセスできることで、日々の育児での決断に対する不安が軽減されると話します。
「親として、自分が正しいことをしているのかどうか、常に心配してしまうものです。時には、様々な異なる意見を聞くこともあります。専門家からの情報を確認できる場所があることで、自信が持てるようになります。子どもたちのために、安心して決断を下せるようになるのです。」
テンダイさんのような保護者にとって、今回の子育て支援アプリは単なる利便性以上の意味を持ちます。それは安心感を与えてくれるものであり、病気の時、不安な時、迷いがある時などに、遠くまで出かけなくてもいつでもサポートを得られるという確信にもつながります。
テンダイさんは、「親がサポートされていると感じれば、子どもはより健やかに育ちます。」と語りました。
ジンバブエで最初に導入された理由
「ベボ」はすでに東欧、中央アジア、アジア地域の15カ国以上で利用されていますが、ジンバブエでのローンチは一つの転換点と言えます。
藤野担当官は「アフリカで初めて導入された国であり、重要な節目です。アフリカはデジタル化の導入を急速に進めていて、ジンバブエはその可能性を示しているのです。」と誇らしげに語りました。
UNICEFは、グローバル版のアプリをそのまま導入するのではなく、保健・児童福祉省と国連国際コンピューティングセンター(UNICC)と協力し、ジンバブエの家族向けにアプリを再設計しました。言語の選択肢からデザイン・コンセプトに至るまで、あらゆる細部が現地の利用者に即したものとなっています。
人間を中心に据えたデジタル・イノベーション
子育て支援アプリの開発の背景には、UNICEF内部における大きな変革があります。藤野担当官は、各国事務所がデジタル・イノベーションを活用して子どもたちに支援を届ける体制を強化するための世界的な取り組みの一翼を担っています。
「デジタル技術が重要であることは誰もが理解しています。」と藤野担当官は話します。「しかし、デジタル技術の活用は容易ではありません。多くの保健や栄養の専門家はデジタル技術の専門家ではありません。だからこそ、私たちはサポート体制を構築したのです。」
UNICEFの「Team One」モデルでは、ジンバブエを含む各国事務所に配置されたデジタル技術のアドバイザーが、世界中のアドバイザーと連携し、必要な場所に適切な専門知識を提供します。テクノロジーは手段であって目的ではありません。私たちがテクノロジーで目指しているのは、国のシステムを強化し、家族に寄り添うことです。
アプリの今後のアップデートでは、人工知能(AI)チャットボットが導入され、保護者が自然な言葉で質問すると、エビデンスに基づいた回答を即座に受け取れるようになる予定です。また、子育てガイダンスをより身近なものにするため、動画コンテンツの活用も検討しています。特に、視覚的なコンテンツである方が情報を受け取りやすい父親たちへのアプローチとして期待されています。
藤野担当官は「子育ては噂や偶然に頼るべきではありません。知識に基づいて行うべきです。」と話します。
家族のための静かなる革命
ジンバブエの保護者にとって、「レライ・ウムントワナ」は単なるデジタルツール以上の意味を持ちます。診療所、コミュニティ、そして家庭をつなぐ架け橋として、保健員が伝えるメッセージを強化し、信頼できる情報を家族の日常生活に直接届けてくれる存在なのです。
この場合、テクノロジーは人間のケアに取って代わるものではなく、それを強化する役割を果たします。
親が支援されていると感じれば、子どもたちの安全と健康が促され、学びに対する準備も整います。その波及効果は、一つの家庭を超えて広がっていきます。
「私たちは育児に関する情報格差を埋めているのです。親が支援されれば、子どもたちはより強く成長します。それがデジタル技術の真の影響力です。」と藤野担当官は話します。
ジンバブエでの「レライ・ウムントワナ」の導入は、単なる技術的な節目以上の意味を持ちます。それは、地理的条件、所得、背景に関わらず、すべての子どもが人生の最良のスタートを切れるようにするという決意の表れなのです。
ジンバブエでのローンチとともに、その未来はすでに家族の手の中にあります。
UNICEFの仕事に関心のある若い世代へのメッセージ
私は民間企業からJICA本部に転職し、現在はUNICEFで働いています。様々な組織で仕事をしてきましたが、子どもの権利に関わる仕事はやはり特別だと感じています。日々の業務がどこかで生きている子どもたちの暮らしに結びついている。その重みと意味を毎日感じながら働いています。
また、子どもの権利というとても難しい課題に取り組む同僚たちは皆それぞれの専門分野を持つプロフェッショナルです。様々なバックグラウンドを持つ同僚と議論を重ねながら物事を前に進めていくのはとても大変ですが、楽しくもあります。
こんなにやりがいのある仕事に出会えたことを、本当に嬉しく思っています。国際協力の仕事は本当に奥深く、私自身まだまだ学ぶことばかりですが、それもまたこの仕事の醍醐味だと感じています。
もし、UNICEFに少しでも関心があるのなら、是非一歩踏み出してください。様々な経験を持つ方がUNICEFでは働いていますし、この多様性がUNICEFの素晴らしさの一つだと思います。一緒に働けることを楽しみにしています。