第87回 西部・中部アフリカ地域事務所 川合菜月

栄養担当官

大学卒業後、日本ユニセフ協会でのインターンを経て、英国の大学院にて国際公衆栄養修士号を取得し、2020年に日系NGOにてカンボジアの小児栄養支援に従事。その後、イギリスやエチオピアで国際栄養事業を担当し、2023年3月よりUNICEFセネガル事務所に栄養担当官JPOとして入職。2024年6月から現職。

床に座る女性たちと子供
UNICEF Senegal/2024/Diouf ポドールで出会った地域の保健員や親子と一緒に。

2025年3月にUNICEFセネガル事務所のウェブサイトで公開された、川合菜月 栄養担当官の現場での活動や想いをつづった記事を紹介します。記事の最後には、UNICEFの仕事に関心のある若い世代に向けた川合のメッセージも紹介しています。是非ご覧ください。


地域を結び、栄養不良と闘う
サンルイとポドールでの3日間の現地訪問から

倉庫の前に立つ人
UNICEF Senegal/2024/Diouf 重度の急性栄養不良に対応するために備蓄された栄養支援物資を確認する、サンルイの保健員や倉庫担当者。

1日目:サンルイに到着 ― 課題の大きさを実感する

セネガルの首都ダカールからサンルイまで6時間かけて移動してUNICEFの車を降りると、夕方の涼しい風が迎えてくれました。その心地よさとは裏腹に、これから始まるミッションの重みがのしかかります。今回の視察の目的は、日本政府の資金協力のもと、UNICEFが栄養不良とどのように闘っているのかを現地で直接見て学ぶことです。

セネガル川が大西洋と交わるこの歴史あるセネガル北部の町、サンルイを訪れるのは今回が初めてです。私にとって、今回の訪問は単なる現地視察ではありません。栄養不良の現実とUNICEFの支援がもたらす影響を深く理解する重要な機会です。この3日間で、必要不可欠な物資や研修、コミュニティとの連携がどのように人々の暮らしを変えているのかを、直接この目で確かめていきます。

カメラに向かって笑顔を見せる人
UNICEF Senegal/2024/Diouf UNICEFが調達した栄養物資が保管されているサンルイの倉庫で働く保健員。

2日目:サンルイ ― 子どもたちの希望を支える倉庫 

この日は、UNICEFセネガル事務所で栄養担当官として働くケンドゥと一緒に視察を行いました。この地域に関する彼女の深い知識とコミュニティの人々が抱える課題への理解は、今回の視察に欠かすことができません。最初に訪れたのは、UNICEFが栄養支援物資を備蓄している政府の倉庫です。すぐ口にできる栄養治療食が置かれている棚の間を歩きながら、このピーナッツペーストのような栄養治療食が、重度の急性栄養不良に苦しむ子どもたちにとって、どれほど重要であるかを改めて実感しました。一箱一箱が回復への希望であり、他に頼る術のない家族にとっての命綱です。日本政府の資金協力により、これらの物資はすぐに現場に届けられる体制が整っており、支援を必要としている子どもたちに遅れることなく治療ケアを行うことができます。

カメラに向かって笑顔を見せる女の人
UNICEF Senegal/2024/Diouf 地域保健局長のセイナブ・ンジャイ医師

続いて私たちは地域保健局を訪れ、地域保健局長であるセイナブ・ンジャイ医師と面会しました。ンジャイ医師は、サンルイ州は3つの県に分かれており、その中でもポドール県は特に栄養不良の影響が深刻だと語りました。そして、「中度から重度の栄養不良に陥っている子どもたちの数が多くなっています。多くのパートナーと共に栄養不良との闘いを続けていますが、日本政府の資金協力を通じたUNICEFの支援はとても重要な役割を果たしています。」と話しました。 

彼女は、子どもたちの命を守るために特に重要なのが、すぐ口にできる栄養治療食をはじめとする栄養支援物資であると強調します。「これらの物資がなければ、子どもたちの栄養状態は回復できません。だからこそ、物資の調達や配布のための資金の調達がとても大切なのです。」と、ンジャイ医師が語ります。すぐ口にできる栄養治療食の段ボール箱で埋め尽くされた倉庫の中で、一つひとつの小さな袋が、重度の急性栄養不良と闘う子どもにとっての希望であることを改めて実感しました。 

しかしながら、これらの物資は支援のほんの一部に過ぎません。支援物資を保健施設やコミュニティに確実に届けることも、同じくらい重要です。「ここに物資があるだけでは十分ではありません。」とンジャイ医師は続けます。「保健員、そして最終的には、子どもの命を守るために支援を必要としている母親のもとに届かなくてはいけません。」 

彼女の言葉が胸に残ったまま、私は翌日のポドール訪問に備えました。ポドールでは、子どもの栄養不良がさらに深刻です。 

現場の人と話す日本人職員
UNICEF Senegal/2024/Diouf UNICEFが調達した栄養物資を保管するサンルイの倉庫を管理する職員と意見交換をする様子。

3日目:ポドール ― 前進と決意が交差する場所 

ポドールへの道のりは長く、セネガル川とモーリタニアとの国境沿いに点在する村々を抜け、乾燥した大地が続きます。到着後、ポドール保健区の副代表医であるアリ・カマラ医師に話を聞きました。「長年この地域では栄養不良率が高く、残念ながら多くの子どもたちが命を失っていく様子を目の当たりにしてきました。最大の課題は、保健施設へのアクセス、スタッフの研修、必要不可欠な栄養物資の確保です。」と、アリ・カマラ医師が状況を説明します。

しかし、状況は変わりつつあります。アリ・カマラ医師は、「現在では、UNICEFの支援のおかげで、訓練を受けた人材、適切な診断体制と患者の紹介システムが整っています。栄養回復・教育センターでは、子どもたちの回復率が非常に高くなっています。2022年には重度の急性栄養不良への治療ケアにおいて、これまでで最も良い成果を上げることができました。」と説明します。彼の言葉からは、保健員の間に着実に広がる自信と、前進への手応えが感じられました。 

ドアの前に並んでカメラに向かった微笑む人達
UNICEF Senegal/2024/Diouf ポドールの保健所で、保健員やUNICEF職員と一緒に。

その自信は、栄養支援の最前線で活動する地域の保健員、ファトゥ・ティンさんからも伝わってきました。「2022年に配属された時には、既に重度の急性栄養不良の子どもたちが回復を遂げるまで治療ケアすることができていました。」と彼女は語ります。「すぐ口にできる栄養治療食やビタミンAのサプリメントをはじめ、必要不可欠な物資の調達を支援してくださっている日本政府には、本当に感謝しています。」 

ファトゥさんの献身的な姿勢は揺るぎません。彼女のような地域の保健員は、栄養不良の子どもたちが重症化する前に、早期にケアを受けられるようにするうえで欠かせない存在です。彼女たちの役割は単なる治療ケアに留まりません。母親への栄養指導や適切な乳幼児の食事法の普及など、栄養不良を防ぐための第一線で働いています。 

赤ちゃんの腕の太さを測る
UNICEF Senegal/2024/Diouf ファトゥ・ティンさんが色分けされたメジャーで栄養不良の検査をする様子。

その後、私たちはポドール中心部から徒歩で1時間ほどの場所にあるンガオレ村に車で向かいました。保健所に入ると、母親の腕に抱かれて座っている小さな男の子の姿が目に留まりました。年齢よりずっと小柄に見えますが、実際のところ、だれも正確な誕生日を把握していません。この地域では出生登録がされていない家庭も多く、生まれた時にどんなお祭りがあったかで年齢を推測することがよくあります。

その男の子は重度の栄養不良の状態でした。腕も脚も細く痛々しいほどやせ細り、母親の支えがなければ座っていることもできません。小さな手で母親の胸元をつかんで母乳を求めている様子でしたが、母親自身も栄養不良の状態にあります。言葉にできないほどの過酷な状況を彼女の身体が物語っていましたが、男の子の目には、静かで力強い生きようとする意志が見えました。

ここで働く保健員は、単なる医療従事者ではなく、希望そのものです。栄養不良は、家族がどのような症状に注意すべきか、誰に相談すればいいのか分からず、重度になるまで気づかれないことも多いです。だからこそ、地域の強いつながりが不可欠です。信頼できる保健員に相談でき、自宅の近くで必要なケアを受けられることで、家族は安心感と支えを得ることができます。

このような家族と支援の間にあるすべての障壁を取り除く必要があります。どんな親も、この闘いを一人きりで背負うべきではありません。

カメラに向かって笑顔を見せる女の人
UNICEF Senegal/2024/Diouf ポドールで活動する地域の保健員のファトゥ・ティンさん。

3日間の視察を振り返って ― これからの道のり

この旅で出会った人々への深い敬意を抱きながら、ダカールへの岐路に着きました。セネガルでは、5歳未満の子どもの10人に1人が急性栄養不良に苦しんでおり、そのうち1.1パーセントは、子どもの健康や生存、発達に深刻な影響を及ぼす重度の栄養不良に該当します。サンルイとポドールでの栄養不良との闘いはまだ終わってはいませんが、着実な前進が見られます。UNICEFとセネガル政府、日本政府との連携は、適切な投資がなされれば、命が守られ、コミュニティのレジリエンス(回復力)が高められるということを示しています。

人生の最初の時期に質が高く多様な栄養を摂取できるようにすることは、すべての子どもが健康的な身体、適切な認知の発達、強い免疫力を備えて人生のスタートを切るために欠かすことができません。だからこそ、すべてのパートナーが力を合わせ、栄養サービスへのアクセスと質を向上させ、家族やコミュニティのリーダー、保護者、地域の保健員と協力しながら、栄養不良の予防と対策を進めていくことが重要です。

サンルイとポドールへの視察で、すべての統計の背後には、母親や子どもたち、保健員といった実在する人々がいて、よりよい未来を目指して日々懸命に闘っていることを再確認しました。そして、UNICEFは常にその闘いに寄り添っています。私もUNICEFの一員として、誰一人取り残される子どもがいないようにするために力を尽くしていきたいと思います。 


子供と触れ合う日本人職員
UNICEF Senegal/2024/Diouf UNICEFが支援する保健施設で、離乳食指導を受ける子どもたち

UNICEFの仕事に関心のある若い世代へのメッセージ

このキャリアを目指す上で大切なのは、好きだと思うこと、やりたいと思う気持ちを信じ続けることだと思います。特に年齢が若いと、経験が少ない故にチャンスを得れなかったり、自身が誇りに思う専門性を重要視してもらえない機会もあるかと思います。ただ、知識を深め、ウェビナーやイベントに参加してネットワークを広げ、現場に足を運び、思いを伝え続ければ、きっと可能性を信じてくれる人々に出会えるはずです。この業界は優秀な方に溢れ、時に自信をなくしそうになるかもしれないですが、諦めず毎日少しずつできることを積み重ねていってください。

私も数年前までは、皆さんのようにこのインタビュー記事を読み、先輩方から学ばせていただく一人でした。大学1年次からUNICEFで働くことを目指していたこともあり、必修科目の栄養の授業の他に、キャンパスを跨いで英語やフランス語といった語学や、国際協力に関する授業を受けていました。また、大学在学中に1年間休学し、バックパッカーとして50カ国ほどを旅しながら現地の人と生活したり、英語・仏語を習得したり、現在勤務しているセネガルではインターンなども経験しました。訪れた国々で出会った子どもや家族との思い出は、UNICEFでのキャリアを志す上で大きなモチベーションとなり、学生時代の様々な挑戦が今の自分を作ってくれたと感じています。

多くの方にとって、キャリアの目標は「組織に属すること」ではなく、組織での業務に従事したその先にある世界を叶えることなのではないでしょうか。役職や肩書きを得ることで満足するのではなく、常に世界の子どもたちのために、自分の能力を最も活かせるよう、考えて挑戦し続けていくことがこの仕事に従事する人としての使命だと考えています。こうやってメッセージを伝えさせていただいている立場ではありますが、私もまだまだ悩み、より良い関わり方を模索している最中です。ただ、必要な努力量を超えるやりがいに出会える仕事であることは、最後にお伝えしたいです。一緒に働けることを、楽しみにしています!