第47回 ソマリア事務所 平井光章
モニタリング・評価専門官
米国の大学卒業後、同国の大学院にて公衆衛生の修士号取得。ケニアのNGOで保健教育に携わった後、米国にて公衆衛生の博士号を取得。米国疾病予防管理センター(CDC)での勤務を経て、2019年にジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)制度でUNICEFジンバブエ事務所に配属。2021年より現職。
現在どのような仕事をしていますか?
現在は、UNICEFソマリア事務所の保健部署でモニタリング・評価専門官として働いています。保健部署が担当するプログラムの目標設定、進捗確認、データ管理をはじめ、プロポーザルや報告書の作成等を行っています。また、プログラムのデータを基に、外部向けのプレゼンテーション資料の作成などもしています。
現在私が関わっているモニタリング・評価の仕事は、保健分野のプロジェクトの進捗管理において重要です。例えば、医療サービスを行うための病院への物資供給の状況、母子保健や感染症予防に関するトレーニングの実施状況、出産前検診を受けた女性の人数、1歳以下の乳幼児の予防接種の状況、病院などの医療施設で出産する女性の人数など、様々な指標をパートナーと一緒に測り、データを管理する仕事をしています。このようなデータは、例えば中間評価や年次評価の際に、UNICEF国事務所の成果を示すために使われます。また現在は、県保健情報システム(DHIS2)を通して、政府が管理するデータベースでデータが共有され、保健プログラムの向上のために役立てられています。
日本政府には、ワクチンを安全に保管・輸送するためのコールドチェーンの整備をご支援いただいています。時宜を得たご支援をいただき、ソマリアの33の病院や保健施設に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンが供給され、ワクチン接種ができるようになりました。
これまでのキャリアと、UNICEFで働こうと思ったきっかけを教えてください。
私は日本国内で勤務した経験がほとんどなく、日本の高校を卒業した後に渡米し、アメリカの大学で社会行動科学を学びました。その後の進路を考えた際に、社会行動科学を用いて保健や衛生に携われる分野を学びたいと思い、大学卒業後はすぐに大学院に進学し、公衆衛生を学びました。大学院在学中は、プログラムのモニタリング・評価の授業を中心に履修しました。
大学院時代に性と生殖に関する健康の問題に取り組むNGOでアルバイトをしたことがきっかけとなり、当初はHIV/エイズなどの予防可能な感染症の解決に携わりたいと考えていました。大学院の夏季休暇の際には、3カ月間ウガンダの小さな学校でサッカーを教えながらHIV/エイズの啓発活動を行い、大きなやりがいを感じました。大学院卒業後、ケニアの農村地域のNGOの活動に1年間携わり、農村地域で暮らしながら学校を回って保健教育を行いました。当時はHIV/エイズに関する仕事をしたいと考えていましたが、農村地域の子どもたちに話を聞いていく中で、HIV/エイズよりも水と衛生の問題で体調を崩して学校を休んでしまう子どもたちの方がはるかに多い、ということに気付きました。そのため、アメリカで博士課程に進学し、水と衛生分野を中心に国際保健の研究を行いました。
博士課程修了後に米国疾病予防管理センター(CDC)に入職し、プログラムのモニタリング・評価に携わりました。CDCでは、パンデミックが起こる前に予防、早期発見、早期対応をするための「世界健康安全保障アジェンダ」という枠組みの中で、17の国に焦点を置いて活動をしていました。私は、支援が行われている国の研究施設においてどれだけの検査能力があるか、感染症の調査・監視システムは機能しているか、災害対応を管理する施設があるかなどの指標のモニタリングと評価を行いました。その後、JPO制度を利用して2019年2月からUNICEFジンバブエ事務所で水・衛生担当官として働きました。
UNICEFジンバブエ事務所では、サイクロンの影響を受けた地域での災害対応や農村地の学校や病院における水と衛生に関する活動に従事しました。UNICEFで働こうと思ったきっかけは、やはりケニアの子どもたちが健康問題で体調を崩して、学校で学ぶことができない状況を知る中で、その背景にある水と衛生という改善可能な問題を解決したいという想いを持ったことでした。子どもたちの健康、そして学校における水と衛生に関わることを第一に考えた際に、そうした分野に積極的に取り組んでいるUNICEFで働くことへの興味が深まりました。
どのような子ども時代、学生時代を過ごしていましたか?
日本で公立の小学校、中学校に通いました。小学生の時は友達と公園で遊び、中学からはサッカー部で活動するような子ども時代でした。その当時は世界に対する興味はまだなく、ただ目の前のことに取り組んでいたように思います。高校に入学してから尊敬していた先輩が留学したこともあり、自分も留学をしたいという思いを持ち始め、英語の勉強に集中的に取り組みました。
大学からはアメリカに留学したのですが、最初は英語が全然できず、ライティングのクラスでは単位を落としてしまうという苦い経験もしました。ただ今振り返ると、学生時代にそうした挫折を経験できたのは大きかったなと思います。一生懸命やっても結果が出ない中で努力を続け、それが上達に繋がるという一連の流れを経験できたことは大きな財産になりました。また、一生涯の友人も作ることができました。大学時代は寮に住んでいたので、みんなで一緒に生活し、勉強に取り組みました。勉強はとても大変でしたが、幸せな学生生活を送ることができました。
保健・衛生分野の仕事のやりがいは何ですか?また、難しいと感じている点はありますか?
水と衛生や保健に関する様々な活動が経験できること、そして、人の命に直結している分野ですので、人の命を守ることができたり、人々の健康を支えられることが大きなやりがいだと考えています。
難しい部分は、水と衛生、栄養、保健という三分野をしっかりと組み合わせて、一つの分野横断的なプログラムとして機能させることです。ある地域では水と衛生に関するプロジェクトが行われ、別の地域では保健に関するプロジェクトが行われ、また別の地域では栄養に関するプロジェクトが行われる、という状況がしばしば見られます。それぞれの分野が別々にプロジェクトを行うだけでは人の健康は守れないと考えていますが、資金やタイミングの問題があり、三つの分野を横断した長期的なプログラムを行うことは難しいところではあります。
現在勤務するソマリア事務所では、保健と栄養という二つの分野を横断するプログラムが進められており、保健施設で保健サービスに加えて栄養に関する支援も提供されています。2019年に世界保健総会が保健医療施設における水と衛生に関する報告書を提出し、保健、そして水と衛生の課題に分野横断的に取り組む、という世界的に大きな流れができています。しかし、現在保健施設で行われている全てのプログラムに水と衛生の要素を取り入れるまでにはもう少し時間がかかりそうです。
博士号や研究分野での経験は、現在の仕事にどのように活きていますか?
UNICEFは研究に特化した機関というよりは実務中心の機関ですが、博士号の経験や研究のスキルを活かせる機会はあります。なぜなら、プログラムを行う過程で得られたデータを論文にまとめたり、報告書に書き起こしたりといった、ナレッジ・マネジメントに関するスキルを持った人材が必ずいるとは限らないからです。研究者にとって、複雑なデータや資料をどのように分かりやすく書き起こして伝えるかということは大切です。難しく複雑なものを図やプレゼンテーションに落とし込んで分かりやすく伝えたり、統計データが何を表すのかを結び付けたりということは、私自身も博士課程でやってきましたので、そうした経験は今の仕事にとても活きていると思います。UNICEFジンバブエ事務所では、プログラムの中で得たデータを分析し、論文にまとめて学術誌に送るという仕事もしました。そうした形で論文にまとめたデータをエビデンスとして活用し、プログラムに繋げていくことができるという点では、博士号を取ったことでより仕事の幅が広がったと思います。
UNICEFで働きたいと考えている、日本の若者に向けたメッセージをお願いします。
UNICEFに入って、UNICEFには本当に多岐にわたる分野の仕事があると感じています。ですから、自分が好きなことをとことん突き詰めて勉強したり、挑戦していただければと思います。自分の強みを何か一つ磨いていけば次に繋がっていくと思いますし、それがUNICEFで自分が携わる分野になるかもしれません。
また、私は留学時に壁にぶつかりましたが、やはり言語は大切になってくると思います。英語はもちろんですが、それだけでなく貪欲に他の言語も身に付けていければ、大きな強みになっていくと思います。
社会人として既に働いている方に関しては、今はJPO制度や広島平和構築人材育成センター(HPC)のプログラムなど、国際機関に人材を派遣する様々な機会がありますので、そうしたプログラムに応募し、自分がやりたい道に進めるように、自分で限界を作らずに挑戦していただければ良いのかなと思います。若手として仕事を始めることもできますし、日本である程度年数を重ね、ミッドキャリアの職員として働くことも考えられます。また、一度UNICEFを出て、再び戻ってくることもあると思います。ですから、いつまでにという期限を設ける必要はないのかなと思います。また、これは自分に対しての言葉でもあるのですが、最終的には情熱をどれだけ保ち続けられるかが大事だと考えています。私は30代前半でUNICEFで働き始めましたが、この先20年、30年と仕事に対する情熱を保ち続けられなければ、仕事はできません。私自身、これからも情熱を絶やさずに仕事に取り組んでいきたいと思います。
インタビュー後記(インターン 安達正之介)
モニタリング・評価の仕事内容、そして保健や衛生の分野で働くことのやりがいについて、丁寧に、分かりやすくお話していただきました。平井さんのお話を通して、保健・衛生分野の活動の難しさについても学ぶことができました。私自身も、平井さんが最後にお話しになった「情熱をどれだけ保ち続けられるかが大事である」という言葉を忘れずに、これからのキャリアを歩んでいきたいと思います。