第95回 ケニア事務所 鎌田舞子

保健担当官

日本の大学・大学院を卒業後、助産師として臨床経験を積む。その後、大学でティーチング・アシスタントを務め、英国の大学院に進学。大学院修了後、日本のNGOに就職し、シエラレオネに派遣。国連ボランティア(母子保健担当官)としてUNICEFリベリア事務所で勤務し、2025年より現職。

リベリアのモンセラード州モンロビア市を訪問し、ポリオの予防接種キャンペーンの様子を視察した際の様子。
UNICEF Liberia/2024 リベリアのモンセラード州モンロビア市を訪問し、ポリオの予防接種キャンペーンの様子を視察した際の様子。

保健担当官として、ケニアでどのような仕事をしていますか。

ケニアは2024年にGDP成長率4.5パーセントを記録し、アフリカ諸国の中でも高い経済成長率を維持しています。しかし、母子保健の課題は依然として深刻です。例えば、最新のデータによると、妊産婦死亡率は日本が出生10万あたり3人であるのに対し、ケニアでは530人になっています。新生児死亡率も、2023年に日本が出生1,000人あたり0.8人であるのに対し、ケニアでは21.5人です。この数字からも、母子保健における課題の大きさがうかがえます。さらに、同じ国の中でも、ナイロビなど都市部と農村部の間には大きな格差があります。また、近年では、気候変動による洪水や干ばつの影響も深刻化しています。これにより感染症が増加したり、必要な保健ケアや教育など基本的なサービスへのアクセスが制限されるという問題も発生しています。

このような問題に対応するため、私はUNICEFケニア事務所で保健担当官として、主に二つの業務を担っています。一つは、プライマリ・ヘルスケアの強化を通じて、すべての人々が必要なときに負担可能な費用で基本的な保健サービスを受けられるようにするユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を推進することです。プライマリ・ヘルスケアとは、人々が最初に利用する、地域に根差した保健サービスのことです。病気になってから病院に行くのではなく予防に焦点をあて、また病気の早期発見、地域レベルでの基本的な保健ケアを提供しています。UNICEFはケニアにおいて、戸別訪問で健康診断や基礎的な保健ケアを提供する地域の保健員、医療サービスを提供する保健センター、病院という、保健サービスの提供において重要な役割を担うアクターを連携させる、保健省主導の「プライマリ・ヘルスケア・ネットワーク」の導入およびその、仕組みづくりをサポートしています。私はこのネットワークの設立や運用、制度化に向けて技術的なアドバイスを行い、サービスのマッピングのためのデータ収集や政府関係者の研修を行っています。また、保健員の能力向上を目的とした研修プログラムの開発や実施にも関わっています。

もう一つの業務は、保健サービスの質の改善を目的とした、コミュニティおよび保健施設レベルのデータの質の向上です。全国および群レベルで保健データの正確性を高め、政策決定に活用できるようにするため、UNICEF本部や現場事務所と連携しながら、データ分析や報告の改善に取り組んでいます。正確なデータの入手とその活用は、保健サービスを提供する際の課題や優先的に支援が必要な地域や分野を明確にし、プライマリ・ヘルスケアを推進させるために欠かせません。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成には保健分野だけでなく、栄養や水と衛生分野の前進も不可欠です。そのため、他分野のチームとも密に連携し、総合的なアプローチを取るよう努めています。さらに、保健分野におけるノレッジマネジメントやアドボカシーにも関わっており、プライマリ・ヘルスケア分野での成果を可視化するためにアドボカシー動画やケーススタディなどを作成し、ドナーへの報告書をまとめたりすることで、説明責任を果たすとともに資金調達にも取り組んでいます。

ケニアのイシオロ地区を訪問した際の様子。
UNICEF Kenya/2025 ケニアのイシオロ地区を訪問した際の様子(写真左端)。

これまでのキャリアについて教えてください。

日本の大学で看護師と保健師の免許を取得し、助産師になるために大学院に進学しました。大学院在学中に公衆衛生やグローバルヘルスに興味を持ち、専攻分野を超えて公衆衛生分野の専門授業にも参加しました。卒業後は助産師として臨床経験を積み、一人ひとりの母親や子ども、家族と向き合う仕事に従事しました。その後、大学でティーチング・アシスタントとして大学生や大学院生への演習や実習指導を行い、さらに英国の大学院に進学して公衆衛生や国際保健を学びました。

大学院修了後、日本のNGOに就職し、シエラレオネで約5カ月間、助産師としてまた、研究調整員として現地職員と一緒に活動しました。これが初めての現場経験でした。予防可能な病気で命を落とす子どもや、症状が深刻化してからようやく病院にたどり着く子ども、常に新生児であふれる集中治療室、毎週増え続ける死亡人数など、日本では遠い世界に感じる現実を目の当たりにしました。

一方で、適切なタイミングで治療を受けることで命が守られるケースもたくさんありました。質の高い妊産婦検診を提供することで、検診の重要性が理解され、母親たちが定期的に診察に来るようになり、早期発見や適切なケアが命を守る場面を数多く経験しました。そして、こうした生死を分ける差は、保健システムのぜい弱性や保健サービスの質、教育や情報へのアクセスの差など、社会的な問題に起因することを実感し、根本的な課題解決に取り組む仕事をしたいと強く思うようになりました。

その後、隣国リベリアで国連ボランティアとしてUNICEFに派遣され、約1年半にわたって母子保健に関する業務を担当しました。母子保健政策の策定、医療従事者への研修プロジェクト、政府機関やパートナーとのワーキンググループの運営などに携わりました。現在はジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)制度を利用し、UNICEFケニア事務所で勤務しています。

ケニアのイシオロ地区を訪問し、保健と栄養に関するアドボカシー動画を作成するために、地域の医療従事者と打ち合わせ。
UNICEF Kenya/2025 ケニアのイシオロ地区を訪問し、保健と栄養に関するアドボカシー動画を作成するために、地域の医療従事者と打ち合わせ。

なぜUNICEFで働きたいと思ったのですか。

正直にお話しすると、学生のころから国連で働くことを目指していたわけではなく、UNICEFで働くことを目標にしてキャリアを積んできたわけではありません。大学や大学院で学びを深める中で、アフリカを含め世界で活躍する友人や先輩、先生方と出会い、日本という枠を超えて、世界の母子保健の課題や社会的要因による健康格差の是正に役立ちたいという考えのもとキャリアを切り開いてきました。助産師やNGO、そして現在のUNICEFでの仕事は、アプローチや必要な知識に違いはありますが、根本となっている原動力は、日本で助産師をしていた頃と変わりません。自分の知識やスキルを最大限に生かし、世界の母親や子どもたちの健康に少しでも貢献したいという思いで邁進してきた結果、今はUNICEFで仕事をしていると感じています。

助産師として働いていた頃は、母親や子どもと一対一で向き合う臨床の仕事で、個人の命や健康に対するインパクトを直接感じることができました。それに対して、現在取り組んでいるユニバーサル・ヘルス・カバレッジの促進などの仕事は、成果が見えるまでに時間がかかります。もどかしさを感じることもありますが、コミュニティや国レベルで社会全体の仕組みを整え、持続可能な保健システムを構築することは、その国の子どもたちの未来を支える基盤をつくる仕事です。非常に大きな意味を持つ取り組みに関わっていると感じています。

日本政府による支援で実施された、モンセラード州モンロビア市内の病院での医療従事者への母子保健ケアの研修を視察した際の様子。
UNICEF Liberia/2024 日本政府による支援で実施された、モンセラード州モンロビア市内の病院での医療従事者への母子保健ケアの研修を視察した際の様子。

UNICEFや国連の仕事に関心がある方へのメッセージをお願いします。

UNICEFや国連機関で働くためには、自分が何をしたいのか、何ができるのかを考えながら、視野を広く持ち、学びと挑戦を続けていくことが大切だと思います。求められる教育レベルや語学力、職務経験などを最短で達成することも強みになりますが、一見遠回りに見える経験を積みながら、自分の強みを磨いていくことで、チームに貢献できることもあります。もちろん、採用条件を満たす努力は必要ですが、足りない部分を埋めるだけでなく、自分の好きなことや得意なことを振り返り、それをさらに伸ばしていくことも重要だと思います。

さらに、自分の軸となる専門性を持つことは大切ですが、それと同時に柔軟性や新しいことへの吸収力を持ち、幅広い知識や経験を得ることも欠かせません。そうすることで、活動の全体像を理解し、専門分野以外のチームと協働するためのコミュニケーション力やリーダーシップ、プロジェクトを実施するための計画力や実行力、急速な変化に対応する適応力を身につけることができます。これらを総合的に備えることで、世界における複雑な課題に対して効率的かつ効果的で持続可能な解決策を導き出し、それを実行し、継続していく力になれると考えています。