第97回 モザンビーク事務所 松野華奈
社会政策担当官
日本の大学卒業後、駐日アフガニスタン大使館での勤務を経て米国の大学院に留学。その後世界銀行本部で社会的保護の仕事に携わり、2022年に国連ボランティアを通じてUNICEFシエラレオネ事務所に赴任。JPO制度を通じて2025年より現職。
現在、どのようなお仕事をされていますか?
社会政策の中でも社会的保護と呼ばれる、日本での生活保護や子ども手当にあたるような、セーフティーネットの仕組みづくりに関する支援をしています。モザンビークは、南部にある首都の周辺では比較的資金があり制度が整っている一方、北部に行くほど貧困率の高さや支援不足などが問題となっています。国全体では約70パーセントの子どもが貧困ライン以下(1日61モザンビークメティカル(約152円)未満)で暮らし、約41パーセントが多次元貧困と呼ばれる、所得だけでなく健康や教育、生活水準などにおいて困窮した水準で暮らしています。
今私が関わっているのは、政府が行っている0歳から2歳の子どもを持つ家族に対する子ども手当事業です。現金給付支援とケアサービスで構成されており、後者は、若年層の母親や暴力へのリスクが高い家庭に戸別訪問をしながら女性たちが得られる支援について伝えたり、実際にケアが必要な人は支援サービスにつなげたりする取り組みです。また、急性栄養不良の治療ケアを受ける子どもたちを対象にした現金給付プロジェクトを通じて、「見えないコスト」をまかなうための支援も含まれています。例えば子どもが急性栄養不良の治療ケアを受ける必要がある場合、診療自体は無料だとしても、保健センターまで行くための交通費や、付き添っている人の食費や滞在費がかかり、保護者は子どもに付き添っている間、本来できるはずだった仕事ができないことにより収入が得られなくなります。治療後に再度栄養不良になる事態にならないよう、そうしたコストを賄うための現金給付も行っています。給付自体は政府を通して行われますが、私は資金の管理やモニタリング、レポート作成などをしています。事業に必要な資金を調達するための提案書をチームと一緒に書くこともあります。
一方で、現金を支給するだけの支援では、貧困から抜け出す手助けにはなりにくいという事実もあります。UNICEFは栄養やジェンダー、保護などの事業も支援しているので、貧困層の中でも特に困窮している家庭に対して包括的な支援を提供できるように、UNICEF内の複数の部署の職員と連携して、より相乗効果の高い支援を行えるように調整するとともに、子ども手当を受ける家庭の青少年やコミュニティを対象にしたジェンダー事業の統括もしています。また、これらのプロジェクトの成果を利用し政策に反映させていくための調査も担当しています。
これまでのキャリアと、UNICEFで働こうと思ったきっかけについて教えてください。
日本の大学で国際関係や国際開発を学んだ後、日本にあるアフガニスタン大使館の領事部でキャリアをスタートしました。日本や周辺国に滞在しているアフガニスタン人に対する市民サービスの提供をサポートする部署で働いていましたが、大学時代に学んだ国際開発の分野において、実際に現場に足を運び、人々に必要なサービスを提供するための仕組みづくりに関わりたいという思いが強くなりました。そこで、米国の大学院で開発経済学や社会保障、貧困削減について学び、在学中に世界銀行の社会的保護の部署でインターンを経験しました。
大学院修了後は、世界銀行でコンサルタントとして働いた後、国連ボランティア(UNV)を通じてUNICEFシエラレオネ事務所で2年間勤務しました。社会的保護の仕事でしたが、障がいのある人に対する支援の仕組みづくりにも関与しました。今のモザンビーク事務所には、ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー (JPO)制度を通じて2025年に赴任しました。
元々、高校卒業まで山梨で過ごしました。海外に行ってみたいという漠然とした思いはありましたが、両親が教師だったこともあり、自分も地元の教師になるつもりでした。ところが、大学在学中にインドのNGOでのインターン経験や日本政府主催の青年育成事業への参加などを通して、国際開発や貧困削減などの分野で海外で活動したいと思うようになりました。教師になる気持ちもあったので最初は教育支援に関心がありましたが、学校に行けない背景には貧困や子どもが労働せざるを得ないより構造的で複合的な課題があることを痛感し、最もぜい弱な立場にある人を支援できる仕事に携わりたいと考えるようになり、いろいろな選択肢を模索した結果、社会政策・社会的保護の分野に行き着きました。
その中でもUNICEFに興味を持ったのは、「現場に行きたい」という思いからです。UNICEFは世界190以上の国と地域に事務所があり、職員の大半が現場で働いています。世界銀行で勤務していた時、同じ社会的保護の分野で活躍していた日本人の先輩から、「若いうちに現場に行った方がいい。本部とは違う視点や経験を得られて成長につながるし、もし本部の仕事に戻りたいと思ったらその時また挑戦すればいい。」というアドバイスをいただきました。この言葉が、大学院を目指す時から抱いていた現場への思いを後押ししてくれました。
現場で働くなかで感じる難しさや、やりがいについて教えてください。
私が携わっている社会政策の分野では、社会保障や現金給付のサービス自体は政府が提供するもので、UNICEFはあくまで資金や技術面での支援を行う立場です。政府のなかでもさまざまな優先事項があり、UNICEFが支援している事業に常に最優先で注力できるわけではないため、事業の進捗に対して自分の力が及ばない点は難しく感じる時があります。取り組みの主体はあくまで政府やその国の人たちであって、私たちはその仕組みづくりを支援する役割なので、成果が見えるまでに時間がかかることもあります。
でも、逆にそうした政策が実際にかたちになった時に、大きなやりがいを感じます。支援を受ける人々により近い立場でプロジェクトを届ける取り組みは、現場での変化や成果を実感しやすく大きな意義があると感じています。一方、より多くの人に持続的に支援を届けるためには、政府の制度や仕組みを強化していく必要があります。ニーズに合わせて政策を改善し、政府の事業として実施できれば、その恩恵を受ける人の数や規模は格段に増えます。その点は国連ならではの醍醐味とも言えます。最終的には、その国の政府や人々が国連機関の支援がなくても社会政策を行えるようになることが目標であり、それに向けてエビデンスをもとにした仕組みづくりの支援が重要となってきます。最初は成果が見えづらくても、大きな視点で国の発展に貢献できていると感じられた時にやりがいを感じます。
また、別の難しさとして、言語の壁もありました。モザンビークの公用語はポルトガル語なのですが、赴任当初は話せなかったので、毎日レッスンを受けながら基本的なコミュニケーションを取れるようになったところです。それでも、事務所内の打ち合わせは英語で行ってもらったり、政府や現場のパートナーとやりとりする際は同僚のサポートも得たりして、業務自体の難しさとは別の意味でも日々奮闘しています。
「この仕事をしていてよかった」と感じた出来事などがあれば教えてください。
社会政策は、構想段階から実際に事業として実施されるまでにとても時間がかかり、国連の任期は数年なので、自分では結果を見届けられない可能性の方が高いです。だからこそ、シエラレオネに赴任していた時に、現場の話を聞いて事業内容を提案する最初の段階から関わったプロジェクトが最近開始されたのを知り、自分が蒔いた種が形になったことにとても嬉しく思いました。
シエラレオネでは、貧困などに起因する若年での妊娠や児童婚が多く、そうした女の子たちが学校から退学しないようにするための現金給付事業を立ち上げました。国連と聞くと華やかな仕事の印象がありますが、データ収集やチームとの調整にあくせくしたり、ひたすらレポートを書いたり、日々の仕事は地道なものも多いです。そんな中、実際にコミュニティに行って若者の課題をヒアリングし、どういった支援が必要かを考えて提案した事業が形になったことは、それまでの努力が報われる思いがしました。
UNICEFや国連で働くことに関心のある若い世代へのメッセージをお願いします。
自分が情熱を持って取り組める課題やテーマをぜひ見つけて欲しいと思います。最初から狙いを定めて最短ルートを目指すことも一つの方法ですが、日々の業務に追われたり、うまくいかないことがあったりしても、諦めずにやりたいと思える分野や課題を見つけることができれば、道は開けていくと思います。誰一人として、全く同じキャリアを積むことはできません。私自身も、始めは教育に興味を持ち、その後さまざまなテーマに触れる中で、社会的保護という分野に至りました。その時々の人との出会いを大切にしながら、これまでに得た知識と経験をもとに、仕事でも私生活でも、自分にとっての最善の選択を積み重ねていくことで、その人にしか築くことのできないキャリアが形作られていくのだと思います。
国連やUNICEFで働くことを目標に、そのために必要な条件を戦略的にクリアしていく方法もある一方で、その成長の過程そのものを楽しむ姿勢もとても大事だと感じます。国連に入るための戦略だけでなく、新しい学びや考え方、文化、言葉に触れ、人との出会いを大切にしながら、人生全体を豊かにするための選択を積み重ねていく。その過程の中で、UNICEFや国連でのキャリアに挑戦していくという方法もあると思います。大きな目標があると、つい日々の大切さを忘れがちになる時があります。私もシエラレオネにいたときは仕事も生活も大変なことが多くありましたが、振り返ってみれば思い描いていた現場での仕事をできた夢のような日々だと感じています。今やっていることが今後のキャリアにどうつながるかという視点も大事ですが、それと同時にその時々の楽しみや新たな学びを味わいながら、自分が取り組みたい課題に対してぜひ情熱を持ち続けてください。