第92回 ナイジェリア事務所 坂本寿太郎
教育マネジャー
大学卒業後、米国の大学院修士課程に進学し、修了後はタンザニアのNGOでボランティア活動に参加。帰国後、国際開発高等教育機構でインターンを経験し、開発コンサルタント企業に就職。その後、JPO制度を通じてUNESCO本部に派遣され、米国大学院で博士課程を修了。2020年にUNICEF欧州・中央アジア地域事務所に入職し、2023年1月より現職。
現在、どのような仕事をしていますか?
私は教育マネジャーとして、教育支援全体の管理を担っています。子どもたちに必要な学びを届けるための仕組みづくりをするため、教育財政改革、教育データシステムの構築、学習成果の調査、教育戦略・計画の刷新、事業評価や計画調整などを通じて、ナイジェリアの教育システムの改善を支援しています。また、州・地方政府および学校を訪問し、現場のニーズを把握し、業務全体の方向性を確認しています。さらに、教育システムの強化に向けて政府への提言を行うことも、私の役割の一つです。
ナイジェリアは約2億3,000万人の人口を抱え、その半数が18歳以下の子どもです。法律により前期中等教育までは無償義務教育とされていますが、現実には約1,800万人の就学年齢児が学校に通えていません。この数は、世界全体の就学できない子どもの約15パーセントを占めるとされています。また、学校に通うことができても、学習環境が整っているとは言えません。生徒は何百人と詰め込まれた過密状態の教室で、机や椅子、黒板や学習教材が何もない中で過ごすことも多く、教育環境に多くの課題があります。
就学を妨げる要因は複合的です。政府の教育予算不足や計画面での課題に加え、家庭の貧困も大きな障壁となっています。また、伝統的な社会規範が根強く残る地域では、女の子に教育を受けさせない家庭も数多く存在します。さらに大きな問題となっているのが治安の問題です。宗教、民族、資源、西洋式教育への反発等を起因とする紛争や武力衝突、テロリズムが継続的に起きており、学校が襲撃されて教員や生徒が誘拐されることも珍しくなく、子どもの通学を控える家庭も少なくありません。学校に通えず、生きていくために必要な知識や技能を習得できなかった若者の多くは、仕事を得ることができず、貧困に直面し、時に武装グループに取り込まれるなど、負の連鎖に陥ることになります。こうした現状を改善するため、UNICEFナイジェリア事務所では、連邦・州・地方政府と共に教育の支援に取り組んでいます。
これまでのキャリアと、UNICEFで働こうと思われたきっかけを教えてください。
この世界には、比較的自由に生き方を選べる人々がいる一方で、生きるためにゴミを拾ったり違法な行為に関わらざるを得ない状況にある子どもたちもいます。困難な状況に置かれた子どもたちは、自分の人生を自ら導くという当然の権利を持てていません。一方で、私がこれまで自分の生き方やキャリアを選択してこれたのは、質の高い教育を受けることができたからだと感じていました。こうした状況を鑑みて、生まれた場所や環境に起因する不平等を教育を通じて是正することを、自分の人生をかけた目標としました。
海外のさまざまな教育を紹介するドキュメンタリー番組を偶然目にしました。日本の学校教育しか知らなかった自分には非常に新鮮に映り、世界の多様な教育のあり方・成り立ちを学べる国内の大学の教育学科に進学しました。学部の時点で自分の専門分野について多角的に学ぶことができたのは、今でも大きな財産です。卒業後の進路を考える中で、開発途上国の教育政策を援助側ではなく途上国側の視点から体系的に勉強したいと思い、米国の大学院で修士課程に進学しました。実務に重きを置いたプログラムで、世界中から集まった同じ目標を持った仲間からたくさんの刺激と学びをもらいました。
卒業後、開発途上国に行ったことがなかった私は、現場や支援活動の実態を知るため、タンザニアの現地NGOでボランティア活動に参加しました。HIV/エイズの蔓延により成人が極端に少なくなった農村で、残された孤児の実態調査ならびに教育・保健支援計画の策定を支援しました。草の根レベルの活動の重要性を身をもって学んだのですが、一方でより大きな変化を促すために、日本人としての立場を活かした方が効果的ではないか、という思いが大きくなっていきました。そこで日本に帰国し、外務省と文部科学省の管轄の下、日本の開発援助人材の育成ならび政府対外援助の効率化を目的とする、国際開発高等教育機構でインターンを経験しました。ここでは、さまざまな研究や研修、政策議論の手伝いをさせてもらうことで、日本の国際援助はどうあるべきなのか、何を達成すべきなのかといったことを学びました。この時の経験や学びがあるおかげで、国際機関で働く今も日本を代表して勤務するという姿勢を常に大事にしています。
その後、日本の教育援助に従事するため、開発コンサルタント企業に入社しました。国際協力機構(JICA)の教育技術支援に参画し、さまざまな国の教育省で政府関係者とともに教育事業の策定・実施・評価に携わりました。そして、開発途上国の教育政策および実施計画が、国際的な政策や枠組みの影響を受けながら形作られている様子を目の当たりにし、グローバルな教育政策がどのように形成されているのかに強い関心を抱くようになりました。
そこでジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)制度を通じて国際連合教育科学文化機関(UNESCO)本部に入職しました。UNESCOでは、持続可能な開発のための教育国際行動計画の策定に従事したのですが、さまざまな利害を有する各国代表団と折衝を行いながら、国際的な基準を作っていくという貴重な経験を得ることができました。その後さらに専門性を高めるため、一旦仕事を離れ、米国で教育政策博士課程に入学しました。自らの研究のみならず、たくさんの共同研究を通じて養った知識や技能は、国際機関で教育政策や事業を支援していく上で非常に役立っています。
博士課程修了後はUNICEF欧州・中央アジア地域事務所の教育専門官として採用され、各国の教育システムの改善に関するアドバイザリー業務に従事しました。ウクライナにおける紛争の激化で国外に避難した子どもたちが学習を継続できるように、周辺国の教育支援体制の調整にも取り組みました。現在は、地域事務所よりもさらに現場に近い立場で働くことのできるナイジェリアで、教育マネジャーとして活動しています。
教育は各国の人的資源戦略の要といえますが、政府機関、学校関係者、地域社会、大学、民間企業、NGO、国際機関など、さまざまな目的を持った関係者が、多種多様な役割を担っています。さまざまな立場から教育開発に携わってきた経験を活かして、より多くの子どもたちに学びの機会と、それを活かして社会に貢献する力を与えていきたいと思います。
UNICEFの教育専門官としてのやりがいや原動力は何ですか。
UNICEFはさまざまな環境下で困難に直面する子どもたちに、現状を変え、より良い未来を歩むための支援をしています。子どもやその家族に対する直接的な支援だけではなく、政府と共に政策や社会制度設計を改善することで、より大きく、持続可能な変革を社会にもたらすことができる組織です。教育に関する政府の政策や制度を改善していくことで、未来の子どもたちを含む多くの人々に教育を通じて人生を変えるきっかけを提供できることに、大きなやりがいを感じています。
さらに、実際に現場に足を運び、支援の成果や子どもたちの様子を自分の目で見ることができるのは、かけがえのない原動力です。実際に彼らがどのような生活を送り、どのような困難に直面しているのかを直接見て、話し、共有することで、数字や統計では見えない現実を知ることができます。こうした経験こそが、UNICEFで働き続ける上での原動力になっています。
UNICEFや国連の仕事に関心のある若い世代へのメッセージをお願いします。
やりたいことや、なりたい自分に挑戦できる環境にある日本の若者たちには、無限の可能性があると思います。せっかくの一度きりの人生ですから、目標があるなら、思いきり挑戦してみてください。上手くいかないことも多いですが、失敗したらやり直せばいいと思います。私も成功の何十倍も失敗を経験しています。
国連職員を目指す人は多いですが、大切なのは、「自分の人生で何を成し遂げたいのか」だと思います。その目標を実現するために国連で働くのが最善の方法であれば、そこに到達するための困難も乗り越えられるのではないでしょうか。目標は具体的であればあるほど、モチベーションも上がり、やらなければならないことも明確になるので、どんな仕事があってどのように働いているのか情報収集するのも大切だと思います。
日本の若者の多くは、中学校・高校でカリキュラムに沿った勉強をして、専門学校や大学に進学して必要な単位を取って就職をするという、足並みを揃えた過程を通る方が多いと感じています。でも、挑戦したいことを見つけたら、それを実行するのを待つ必要はありません。目標を実現するために、どういった手順を取らなければならないのか、そのためにはいつ何をする必要があるのか調べて、具体的な計画を立てて、自分だけのプロジェクトをスタートさせましょう。周りにそうした友人や同僚は多くはないかもしれませんが、世界にはこうしたことを早くから計画し、準備して実行している学生や若者は沢山います。そして国連を含め国際的な環境で仕事をしていくとなると、彼らとの競争に勝っていく必要があります。中・長期的な計画を立てて着実に実行していけば、国連やUNICEFで働くことも決して難しいことではないとも感じます。大変な業界ではありますが、その分やりがいのある仕事ですので、是非挑戦していただければと思います。
インタビュー後記(インターン 大川愛里)
自分の人生で何を成し遂げたいのかを指針に、具体的な目標を持ち、今やるべきことに落とし込んでいくという考え方は、私自身がキャリアを考える上で胸に刻みたい学びとなりました。
坂本さんはこれまで強いモチベーションを持ちながら、現場を知り、そこで得た気づきを次のステップにつなげてこられました。UNESCO本部や大学院で国際的な教育に関する枠組みや教育政策について学び、そして今は国全体の仕組みづくりに携わっています。ともに働く人から学んだ視点を次に活かす、その積み重ねによって、一つひとつの仕事が持つ意味や影響をより深く理解されているのだと感じました。
常に現在と未来を見据えて自らを磨き続けることは、時に苦しさも伴うそうです。しかし、教育を通じて子どもたちの人生を変えるという、揺るぎない信念のもとに走り続ける姿に、強く心を打たれました。