第91回 トルコ事務所 岩田千鶴
青少年育成専門官
大学院卒業後、商社に就職。その後、広島平和構築人材育成事業を通じて国連ボランティアとしてパレスチナへ派遣、若者支援を担当。UNICEFインドネシア事務所、ルワンダ事務所、ニューヨーク本部、南アジア地域事務所での勤務を経て、2024年より現職。
現在、トルコではどのような仕事をされていますか?
私はトルコ事務所で、若者の育成や社会参画を支援する業務を担当しています。 トルコには15歳から24歳までの若者が約1,300万人おり、今後の社会の発展を担う存在とされています。しかし、十分な教育の機会を得られなければ、就職や社会参画が難しくなることが大きな課題です。過去数十年で教育水準などの社会指標は改善したものの、就労に必要なスキルを身につける場は依然として限られています。その結果、若者の23パーセントが就学や就労をしておらず、職業訓練も受けていない、いわゆるニートの状態にあり、特に女性は約30パーセントに達すると言われています。さらに近年は経済状況も悪くなってきており、昨年のインフレ率は75パーセントに上りました。文化的にも若者たちの社会参画の機会が少なく、自ら意見を発信できる場が限られています。加えて、2023年に発生した大地震の影響は依然として残っており、仮設住宅で暮らす人々も多くいます。地震の被災者や、またトルコに57万人いるシリア難民の若者たちは、特にスキル習得や社会参画の機会が限られています。
こうした状況の中で、私は政府機関やNGOと協力して、若者のスキル向上トレーニングを実施したり、社会参画を促すためにボランティア活動や子ども議会への参加を推進したりしています。また、シリア難民が多いトルコでは、地域住民との対話を促進したり、社会的な結束を進める取り組みも行っています。そのほか、トルコの青少年スポーツ省への政策提言、プロジェクトの提案書や報告書の作成、支援の調整などに携わっています。時には現地を視察し、事業が適切に運営されているかを確認しながら支援を続けています。
UNICEFで働こうと思ったきっかけと、これまでのキャリアを教えてください。
自分と同じ「千鶴」という名前の子どもが登場する第二次世界大戦の話を読んだことから、幼い頃から戦争や平和に関する話に興味を持っていました。特に中学生のときに新聞で読んだ「子ども兵士」の記事は大きな衝撃でした。同じ時代を生きる自分と同じくらいの年齢の子どもたちが、兵士として戦争に参加しなければならない現実を知り、心に強く刻まれました。また、私の出身地は多様な背景を持つ人々が暮らす地域であり、その環境も国際協力への関心を深めるきっかけになったと思います。
しかし当時は、国連機関や開発支援にどのように関わればよいのか分からず、大学院卒業後はまず民間企業に就職しました。商社でインフラ事業に携わり、プロジェクトマネジメントの経験を積むとともに、ビジネスを通じての国際貢献について考える良い経験になりました。その後、広島平和構築人材育成事業を通じてUNICEFパレスチナ事務所に国連ボランティアとして派遣されたことが、国連機関に入る大きな転機となりました。その後はUNICEFインドネシア事務所やルワンダ事務所で青少年支援に従事し、本部で人道支援における子どもの保護に関するグローバルアライアンスの業務に携わりました。機関を超えた調整を行う中で、広い視野を持つことの重要性を学べたのは非常に貴重な経験でした。南アジア地域事務所で教育・青少年育成事業を担当したのち、現在はトルコにおいて、青少年の就労支援や、スキル教育、社会参画の促進に取り組んでいます。
青少年支援は、分野横断的な業務が多いのが特徴です。そのため、私はUNICEFの中でもさまざまな立場から青少年支援に携わり、幅広い経験を積むことができました。これらの経験は、自身の視点を広げる大きな財産になったと感じています。
これまでのUNICEFでの経験で、子どもや青少年との関わりの中で印象的だったことや、日々の活動で心掛けていることなどはありますか?
印象に残っている出来事のひとつは、インドネシアの東ティモール国境に近いクパン島で、青少年の社会参画を促進するプロジェクトを実施していた時のことです。その村では、地球温暖化の影響で干ばつが進み、子どもたちが担っていた水汲みの負担が増していました。以前から決して近くはない井戸に水を汲みに行っていましたが、干ばつによりさらに遠くまで行かなければならなくなり、その結果、学校に遅刻する子どもが増え、教育を受ける機会が奪われてしまっていたのです。しかし、村の予算を決めるおとなたちにはその深刻さが十分に理解されておらず、優先順位が低いままでした。そこで、子どもたちが村の議会で「新しい井戸を作ってほしい。」と直接発表したことで、おとなたちもその必要性を理解し、村に新しい井戸が建設されました。その結果、子どもたちは遅刻することなく学校に通えるようになったのです。自分の関わった活動によって子どもたちの生活が具体的に改善される姿を見られたことは、大きな励みになりました。
現在働いているトルコのように、UNICEFが政府に政策提言を行い、村単位ではなく全国規模で子どもたちに影響を与える仕事は、成果が見えるまでに長い時間がかかります。新しい取り組みを始めても、実際に政府が実行し、子どもや若者の生活に変化が生まれるまでには数年単位でかかることもあり、私がトルコにいる間には結果を見届けられないかもしれません。それでも、今この瞬間に書いている一つひとつの書類が、最終的には子どもたちのためにつながっていく、という信念を忘れないようにしています。
また、UNICEFでは、子どもや若者とともに解決策を考えます。私はこれまでに培った専門知識や国際的な知見をもとに仕事をしていますが、国が変われば文化や考え方も異なります。だからこそ常に謙虚に現地の声に耳を傾け、子どもたちや若者とともに最善策を探すことを心掛けています。
これまで多くの国で働かれていますが、どのようなことを意識してキャリア形成をされてきましたか?また、多様な国で働く中で経験した価値観の変化などがあれば教えてください。
キャリア形成について意識していることの一つは、かつて上司から言われた、「10年後にどんな仕事をしたいのかを考え、そのために必要なスキルや経験をどう積んでいくのかを意識しなさい。」という言葉です。これを常に心に留めてキャリアを築いてきました。ただ、実際は計画通りにいくことばかりではなく、行き当たりばったりだったり、遠回りに感じられる道を進むことも少なくありません。特に青少年支援の求人は数が限られているため、運やタイミングも大きな要素になります。それでも、子どもの保護や教育、分野横断的な調整など幅広い業務に携わる中で、遠回りだと思った経験も最終的には自分の仕事に活きていると強く実感しています。
これまで私は、低所得国から中所得国の国事務所、地域事務所、本部での業務や、他の国連機関やNGOとの連携など、同じUNICEFでもそれぞれ異なる環境で働くことができました。そのたびに新しい視点を得られたり、UNICEFの多様な業務内容について知れたことが、大きな糧になっています。
価値観の変化として特に印象に残っているのは、若者たちの社会に対する目線です。例えばルワンダは教育水準や経済指標では日本よりも低い国ですが、就職先がなかなか見つからない若者であっても社会全体が成長していると肌で感じているのか、とてもポジティブに未来を捉えているように感じました。その姿勢には大きな刺激を受けました。
UNICEFはとても多国籍な職場であり、多様な価値観や意見を持つ人が集まって仕事をしています。意見や文化の違いは当然ありますが、様々な視点を持ち合って最終的に納得感のあるより良い解決策にたどり着けるよう、協力しあっていくことが大切だと感じています。違いを前向きに活かしていくことこそが、国際的な場で働く醍醐味だと思っています。
UNICEFや国連の仕事に関心のある若い世代へのメッセージをお願いします。
国連やUNICEFの仕事に関心を持っている皆さんには、ぜひ現場を知ることを大切にしてほしいと思います。さまざまな人の話を聞いたり、実際に現地を訪れたりして、自分の目で状況を知ることで、初めて見えてくることがたくさんあります。
キャリア形成については、自分がどんな方向に進みたいのかを考えることが出発点です。そのうえで、自分の強みは何か、逆にどんなスキルが足りないのかを意識し、求人要項などを参考にしながら必要な経験を積み重ねていってください。国連での仕事はどうしても運やタイミングに左右される部分もあります。そのため、一度の挑戦でうまくいかなくても、長期的な視点を持ち、柔軟に挑戦を続ける姿勢が大切だと思います。例えば、子どもの保護に関わりたいと考える学生がいるとします。将来UNICEFで働くことを目指すのも一つですが、まずは今の自分のいる環境で、自分が何をできるかを考えながら行動してみるのも一つの道です。大きな夢に直結しないように見える経験でも、必ず将来の糧になります。
私自身、青少年と社会参画について話す機会が多いのですが、いつも若者たちのパワーに元気づけられます。彼ら、彼女たちを見ていると、どんな社会の変化も、誰かの小さな一歩から始まると強く感じます。その小さな行動の積み重ねが、社会をより良い方向へと動かしていく力になります。だからこそ、自分の立場や環境の中で、自分にできる行動を見つけて一歩踏み出してほしいと思います。
インタビュー後記(インターン 大川愛里)
「どんな社会の変化も、誰かの小さな一歩から始まる。」 数多くの場で青少年と向き合ってきた岩田さんだからこそ、重みをもって語られた言葉だと感じました。
キャリア形成についても、今の自分の立ち位置を認識し、目指す方向に向けて一歩を踏み出す。その繰り返しが大切だというお話がとても印象的でした。たとえ遠回りに見える道でも、そのすべてが自分をまた新たな場所に連れて行ってくれるのだと思います。岩田さんのお話からは、一歩を踏み出す勇気の大切さが力強く伝わってきました。