第90回 エチオピア・オロミア現場事務所 安田あゆみ
緊急支援担当官
大学卒業後、国際機関でのインターンや大使館、NGOでの勤務を通じて緊急支援の経験を積む。その後、大学院にて子どもの人権に関する修士号を取得し、国連ボランティアでウガンダに派遣。2024年3月より現職。
現在、エチオピアではどのような仕事をしていますか?
エチオピアのUNICEFオロミア現場事務所にて、緊急支援担当官として勤務しています。エチオピアは、武力紛争や自然災害、感染症の流行、食料不足、経済危機など、あらゆる人道危機が発生している国だといわれています。その中でも、面積も人口も全体の約35パーセントを占めるエチオピア最大の州、オロミア州の現場事務所に所属しています。国全体では、人道支援を必要としている人口は2,000万人以上、その内1,200万人が子どもたちです。エチオピアでは、約1万校の学校が民族間の争いや紛争による被害を受けて使えない状況にあります。
緊急支援担当官として、私は大きく二つの業務に従事しています。一つ目は、あらゆる緊急事態の各段階における支援です。これには、緊急事態の予防、発生時の対応、そしてUNICEFの各部門との連携や調整などが含まれます。現場事務所の緊急支援担当官として、現地に赴いて人々から直接情報を収集したり、視察を行ってその様子をUNICEFエチオピア事務所に報告・共有することが主な業務です。月の半分程度は出張しており、現場での活動が多くを占めています。
二つ目の業務として、オロミア州における社会政策支援を統括しており、主に人道的現金給付支援を担当しています。これは、紛争・災害などの緊急時において、被災者やぜい弱な立場にある家庭に直接現金を給付することで、受益者自身が生活の改善に必要な基本的サービスやものを選択できるようにする支援方法です。人道支援が届きにくい地域に住む人たちは、携帯電話や銀行口座を持たない人も多くいます。そうした地域に支援を届ける際には、UNICEFと銀行職員が現金を直接村へ運び、住民に直接現金を給付するかたちで支援を行うこともあります。
これまでのキャリアと、UNICEFで働こうと思ったきっかけを教えてください。
小学校2年生のとき父の仕事の関係でネパールに引っ越し、小学校時代をネパールの山奥で過ごしました。電気や水も通っていない環境でしたが、固定観念のない年頃だったこともあり、現地の友人たちと毎日楽しく遊んでいました。一方で、弟や妹の世話をしながら遊ぶ現地の子どもたちや、片道10キロ以上の道のりを歩いて学校に通う姿を目の当たりにし、生まれ育った環境によって子どもたちの生活が大きく異なることを、幼いながらに実感しました。私にとってこの体験は貴重なものであり、日本の外の世界に目を向けるきっかけとなりました。
大学卒業後は、国際機関でのインターン、大使館、NGOでの勤務を経て、大学院に進学しました。ネパールで暮らした経験から、生まれた国によって置かれる環境が大きく異なる現実を身をもって感じたこと、そして子どもの頃に抱いた気持ちや視点を忘れたくないという思いから、子どもの権利を専攻に修士号を取得しました。その後、国連ボランティア(UNV)としてウガンダに派遣され、現在はジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)制度を通じてUNICEFエチオピアで勤務しています。
UNICEFで働きたいと思ったきっかけは、子どもたちと向き合う組織で仕事がしたいと強く思ったからです。UNICEFは、緊急支援と開発支援の両方を行う組織です。現在私は緊急支援に携わっていますが、その性質上、緊急事態が収束すれば、どこかで支援の区切りをつけなければなりません。しかし、支援を受ける人々の生活はその後も続いていきます。だからこそ、緊急支援を中長期的な開発支援につなげていく責任が私たちにはあります。UNICEFのように、緊急支援と開発の両方を担う組織だからこそ、目の前の緊急的なニーズに応えながら、その先の持続的な支援のあり方を共に考えていくことができます。これまでの様々な支援活動の経験を通じて、私はその理念に強く共感し、UNICEFの仕事に大きな魅力を感じています。
これまでの経験で、現在のUNICEFでの仕事に活きていることがあれば教えてください。
国際機関の仕事は単独で行われるのではなく、多様なパートナーと協働して活動をしています。これまで私は、大使館やNGOで経験を積み、それぞれの立場、強みや課題、視点を学んできました。こうした経験は、現在の仕事において相手の立場に立って物事を考えたり、パートナーとの連携を図るうえで大いに活きていると思います。
国際協力の現場では、現地の人たちの視点を欠いた独りよがりの支援にならないことが重要です。そのためには、現場の声に耳を傾ける力、相手の立場で物事を考える力、そして一歩引いて全体を俯瞰する力が欠かせません。これらの力は、これまでの多様な経験を通じて培ってきたものであり、国際機関の枠を越えて様々なパートナーと一丸となって国際協力に取り組む上で、大きな強みになっていると実感しています。
エチオピアでの緊急支援では、非常に厳しい環境での業務も多いと思いますが、その中でどのように業務と向き合っていますか?
私は、二つのことを意識しています。一つ目は、自分の限界を知ることです。以前、働き詰めの私に対して、上司が「その日、自分にできる最善を尽くせばいいよ。」と声をかけてくれたことがありました。私たちは、少しでも困っている人たちの力になりたいという想いで日々の業務に取り組んでいますが、明日すぐに状況が劇的に変わるような仕事ではありません。多くの人的資源や資金が必要であり、自分一人ではどうにもならないことも多くあります。思うような変化が見られず、もどかしさを感じることも少なくありません。だからこそ、その日その時にできる最善を尽くすという姿勢が大切だと感じています。そして、そのためには、自分自身の限界をきちんと認めることも必要です。限界を知るからこそ、その中でベストを尽くすことができるのだと思います。
二つ目は、意図的に仕事のスイッチをオフにする時間をつくることです。緊急支援の仕事は終わりが見えにくく、やろうと思えばいくらでも働けてしまう傾向にあります。しかし、自分の健康や生活を犠牲にしてまで続けてしまうのは本末転倒であり、長期的に見て効果的な成果をあげることはできません。私自身もまだ模索中ではありますが、平日や緊急対応時以外はできるだけパソコンを持ち帰らないようにしたり、仕事後に運動をしたり、寝る前に本を読んだり、料理をしたりと、意識的に仕事以外の時間を過ごすようにしています。緊急支援という常に緊張感が求められる環境だからこそ、メリハリを意識することが重要だと感じています。
UNICEFや国連の仕事に関心のある若い世代へのメッセージをお願いします。
どんな道を歩んできたとしても、そこに正解や間違いはないと私は思います。だからこそ、一つのことにとらわれず、さまざまな経験を重ねることがとても大切です。
私自身、かつては国際機関で働くには専門性が不可欠だと思い込んでいました。でも今は、必ずしも初めから専門性を持っている必要はないと感じています。キャリアの初期段階では、広く門戸を開き、手探りでもいろいろなことに挑戦する中で、自分が関心を持てることや、もっと深く学びたいこと、関わっていきたい分野が見えてきます。そして、その積み重ねが、結果的に自分の専門性となっていくのだと思います。これから国連や国際機関を目指す方には、専門を初めから一つに絞らなければいけないと思い込まず、ぜひ多様なことに挑戦して、自分なりの道を見つけてほしいと思います。
また、国際機関、特にアフリカではアジア系の職員が少ないのが現状です。しかし、日本人ならではの真面目さや丁寧さ、仕事に対する誠実な姿勢は、現場で確かな強みとして活きています。だからこそ、この仕事に関心のある方には、自信をもって前向きにチャレンジしてほしいと思います。もちろん、仕事には大変なことも多くありますが、多様な背景を持つ世界中から集まった同僚と一緒に働ける環境はとても楽しく、人生をより彩り豊かなものにしてくれていると感じます。このインタビューを読んでくださっている皆さんにも、ぜひいろいろな挑戦をしていただき、いつかどこかで一緒に働ける機会があれば嬉しいです。
インタビュー後記(インターン 大川愛里)
お話を伺い、写真を拝見しながら、安田さんの活動がいかに現地の人々の暮らしに深く寄り添っているのかを実感しました。幼い頃、ただ目の前の友人として開発途上国の子どもたちと向き合われた経験が、今の安田さんの温かくも地に足のついた姿勢につながっているのだと感じます。
緊急支援の先にも現地の方の生活は続いていくという視点は、日々現場で人々と向き合っているからこそ持てるものであり、そこに中長期的な支援をどうつなげていくかという問題意識にも深く納得させられました。また、自分の限界を知り、その中で最善を尽くすという考え方にも、大きな学びがありました。思うようにいかない状況の中でも、自分の限界を見つめ、その中で毎日できることを積み重ねるという姿勢は、大きな課題に取り組む上で欠かせないものなのだと思います。
そして何より、「どんな道にも正解も間違いもない」という言葉は、私にとっても大きな励ましとなりました。この言葉は、国際機関を目指す多くの学生にとっても、力強く背中を押してくれるものだと思います。多くの気付きをいただきました。本当にありがとうございました。