第81回 太平洋島嶼国事務所 上野明菜

教育専門官

大学卒業後、国内の私立高校で教員として勤務し、英国大学院に進学。大学院卒業後にUNESCOバンコク事務所にてインターン。在カンボジア日本大使館や世界銀行を経て、JPO制度にて2018年UNICEFラオス事務所に教育担当官として入職。2024年6月より現職。 

UNICEF太平洋島嶼国事務所にて撮った写真。
UNICEF Pacific/2024 UNICEF太平洋島嶼国事務所にて。

現在、どのような仕事をされていますか?

2024年6月より、フィジーの首都スバにあるUNICEF太平洋島嶼国事務所で教育専門官として働いています。太平洋島嶼国事務所は、トンガやソロモン諸島、サモアやツバルなど太平洋にある14の国の活動を統括しています。今行っている仕事内容は主に2つあり、一つ目は管轄するそれぞれの国の教育政策の立案や実施のサポートや、教育関係者の能力開発です。二つ目は気候変動による教育に対する影響への対応です。

太平洋には多くの島々がありますが、その国によって教育の問題は異なります。特徴的なことは、一カ国あたりの人口が少なく、かつ諸島と呼ばれるように小さな島が何百も存在することです。その島々に学校があり、先生がいて、生徒がいます。こうした地形的特徴が、子どもたちの教育やUNICEFの活動にも影響してきます。遠隔地の島々に暮らす子どもたちが、他の地域の子どもたちと同じような質の高い教育の恩恵を受けることができるよう、UNICEFは政策レベルで教育の機会や質の公平性を向上させる取り組みをしています。そのため、UNICEFの活動でも個々の国を超えた大洋州としての枠組みを大切にしています。例えば、学校に通うことが難しい子どもたちの状況を把握したり、幼児教育、初等教育、中等教育で具体的にどのような支援が必要なのかを特定するワークショップを各国の教育省と協力して開催しました。また、若者や家族がより良い教育や機会を求めて島を離れて先進国へ移住するケースも多く、太平洋の国々では人口流出も大きな課題です。このような背景をふまえ、各国の教育問題に対して、その国の文化や伝統などを重んじながら、子どもたちが将来必要なスキルや能力を身につけられる質の高い教育を届けるために、各国の教育省と共に政策づくりや教育関係者の能力開発を支援しています。

また、近年の気候危機の問題も大洋州各国の教育に大きな影響を与えており、太平洋島嶼国事務所での活動にも大きな影響を及ぼしています。近年ますます気候変動に起因する自然災害やサイクロンがより頻繁に発生するようになり、その影響で子どもたちは教育や保健ケア、安全で清潔な飲み水を失ったり、安全な環境で過ごすことができなくなったりしています。気候危機の問題は、今世界中で注目されていますし、分野を越えて子どもたちへの影響が懸念されているので各国政府からの支援も多く入ってきています。UNICEFでは、学校や子どもたちがこうした危機に備え、自然災害が発生した際に被害を最小限に抑えて学習を継続するための支援を行っています。また、緊急事態への対応やレジリエンス(回復力)の高い教育システムの構築にも取り組んでいます。 

教室で教鞭をとる明菜さん。
UNICEF Laos/2024 ラオスの首都ビエンチャンにてモニタリング調査の様子。

これまでのご経験やキャリアと、UNICEFで働こうと思ったきっかけを教えてください。 

大学卒業後は、日本の私立高校で英語教員として4年間働きました。日本で教員として働いている際も、大学在籍中に2年間休学して在シンガポール日本国大使館で在外公館派遣員として働いていた際に出張で訪れた、パプアニューギニアで目にした光景が頭から離れませんでした。パプアニューギニアの首都を移動する車内から、平日のお昼にも関わらず街中を歩き回るたくさんの子どもたちが目に入りました。そこで、現地の方に、「今日は学校がない日なの?」と聞くと、「彼らは学校を退学して、街で時間を過ごしている子どもたちです。」と言われたことに衝撃を受けました。開発途上国では、学校から退学せざるを得ない子どもたちがいることは知っていたものの、実際に目の当たりにしたのは初めてでした。この世界の不公平さに怒りを覚えたとともに、教育は世界の子どもたち誰もが受けられているものではないということに改めて気付かされました。そして、パプアニューギニアで目にした子どもたちと日本の子どもたちの状況の違いに驚き、何か自分にできることはないかと考えるようになりました。日本の教育現場での勤務も4年を過ぎた頃にこの光景を思い出し、この先の自分の人生で教育に関する仕事に携わっていくなら、開発途上国の教育支援をしたいと考えました。

UNICEFで働こうと思ったきっかけは、分野横断的な支援を提供していることに魅力を感じたからです。以前、在カンボジア日本国大使館にて学校建設などのインフラ面に携わっていた時に、カンボジアの村を回りながら住民と話をする機会がありました。その際に、学校を建てたからといって子どもたちが学校に通学できるわけではないということを実感しました。子どもたちが栄養不良に陥って学校で教育を受けられる状態ではなかったり、学校で清潔なトイレや安全な飲み水がない、通学路が危険など、理由は様々でしたが、これらの問題は学校の建設や教育の質の向上そのものだけでは解決できません。この点において、UNICEFは分野横断的に活動しており、水と衛生や保健、栄養に至るまで多方面の分野から取り組みながら、子どもたちへの質の高い教育の実現に向けて活動していることに魅力を感じました。

また、UNICEFはよく現場主義と言われるように、全職員の85パーセント以上が支援が必要な国で活動しています。私は、自分自身がパプアニューギニアで目にした光景から子どもたちの置かれている現実を知ったように、現場に足を運んでこそ分かるものがあると思っています。UNESCOバンコク事務所でインターンをしていた時は、主に教育に関する国のデータ収集や分析を行っていました。この仕事自体は国全体の教育の質の向上に関わる重要な仕事である一方、私自身は、現場で現地政府の方々と共に子どもたちへの支援を提供する活動に携わっていきたいと実感したことも、UNICEFで働きたいと思ったきっかけでした。 

他の国際機関でも経験を積まれていますが、UNICEFならではの活動の特徴は何だと思いますか。 

特徴の一つとして、各国政府との距離の近さが挙げられると思います。UNICEFは、活動国の政府と一緒に仕事を進めていくので、政府と足並みを揃えて支援活動を展開することができます。その国の教育を良くしていきたいという政府側の想いと、子どもの権利を実現するというUNICEFの明確な使命のもと、そのためには何が必要かということを話し合っていきます。UNICEF単独で事業を進めるのではなく、政府と共に協力して活動することで分野横断的な活動を可能にしていると思います。

また、分野横断的な取り組みのほかに、子どもたちやコミュニティなどの学校レベルから政策レベルまで活動を展開し、現地の人々からの信頼も高く、様々な関係者と日々協力しながら活動しているのもUNICEF の特徴です。私も実際に、地域の学校を訪問して直接先生たちと話をすることもありますし、政府担当者に政策を提言したりすることもあります。仕事の種類が豊富ですし、勉強することがたくさんあるので、自分のスキルを磨きながら前進していくことができる場所ですね。 

ラオスのビエンチャン県にて教員にインタビューをする明菜さんの様子。
UNICEF Laos/2023 ラオスのビエンチャン県にて教員インタビューの様子。

教育専門官としてのやりがいや原動力は何ですか。 

もともと教員だったこともあり、人の能力開発にやりがいを感じます。UNICEFの教育専門官としての仕事の1つに、教育省や学校などの教育関係者の能力育成があります。例えば、UNICEFラオス事務所にて教育担当官をしていた2019年、ラオスで初となる9年生の全国学力調査を実施しました。その当時ラオスでは全国で学力調査を行ったことがなかったため、学習の成果に関するデータが少なく、教育省も学力調査実施に関する知識や経験がありませんでした。最初は本当に手探りで、テスト問題作りからテスト問題の印刷作業、試験官の手配まで、教育省の人たちと一緒に取り組みました。とても苦労しましたが、その後UNICEFはこの全国学力調査支援をモデルにして、東南アジア諸国連合(ASEAN)の地域全体の学力調査の実施も支援しました。この経験を通して、ラオスの教育省職員の知識やスキル、チームワークが強化されて、彼らの学習成果に関するデータの取得が良い政策の策定に重要であるという理解と意識が格段に向上しました。この経験や知識は、ラオスの教育省の能力として引き継がれていくことでしょう。

全国学力調査のもう一つの重要な側面は、子どもの学習状況に関するデータを入手できることです。算数や国語などの教科の学力に関するデータだけでなく、同時に行う質問紙調査で、例えば学校や家庭でこどもが直面している課題なども同時に知ることができました。その結果、今までラオスになかった子どもの教育の質を向上させるために役立つデータを入手することができました。以前から学力の低さは教育省も認識はしていたのですが、データがないため証拠がありませんでした。しかし、学力調査で学力の低さを裏付けるデータが出てきたことで、教育省も分野別に的を絞って改善に向けた取り組みに舵を切るようになりました。また、これがきっかけとなり、学力が低い原因を探ったり、適切な予算配分や教員の能力育成、教材の質の向上など、教育省の担当者レベルでの問題意識もさらに高まりました。ここで集まったデータは、将来のより良い教育政策の策定に向けて、ラオスの教育省だけでなく、ラオスで開発支援を行う国際協力機構(JICA)やオーストラリア政府などの開発パートナーからも関心を集めました。全県を網羅する大規模な仕事で大変ではありましたが、大きなやりがいを感じました。将来的には、UNICEFが支援しなくても政府が自分たちで学力調査ができるようになるというのが長期的な視点です。このように、私たちの支援によって政府の能力が向上し、子どもたちの教育の状況を大きく変えるきっかけを作ることができる仕事に喜びを感じます。 

ラオス北部にて就学前教育の授業を見学する明菜さん。
UNICEF Laos/2019 ラオス北部にて就学前教育の授業を見学。

UNICEFや国際機関で働きたいと思っている若者に向けたメッセージをお願いいたします。 

まず一つは、国際機関で働くこと自体を目標にしない方がいいということです。それを目標にしてしまうと、自分の専門性を見失ったり、各国政府やNGOを含む他の組織の支援内容を知ろうとしなくなったり、人道支援や開発支援という全体のシステムを俯瞰できなくなってしまったりします。多くの人が国際機関で働くことへの憧れを持っていると思いますが、他の組織がやっていることを知った上で、なぜ自分は国際機関で働きたいのかということを考えてほしいと思います。

現実的には、国際機関で働く場合は、世界の様々な国に数年おきに赴任するので、仕事と家庭のバランスを考える必要もあります。家族と離れて暮らすことが多くなったり、子どもをどこで育てるかなど、家族の生活も考慮に入れてキャリアを構築しなくてはいけません。そのため、仕事内容や働き方などを知るために、まずはインターンや国連ボランティアで経験を積むなど、何らかの形で実際に国際機関で働いてみるといいかもしれません。私の場合、インターンで様々な事を学びました。多国籍で異なる価値観や働き方を持つ同僚と一緒に働く職場環境など、国際機関の働き方を理解したり、自分の適性と合っているかなどを確かめるためにも実際に働いて知るということが大切だと思います。また、日本にいたとしても、留学生と議論を行ったり、多くの人と一緒に物事を進めるという経験を積むなどして自分の周りを国際機関と似た環境にするということもいいと思います。もし、UNICEFなどの支援の現場で働きたい場合、厳しい環境下で仕事をすることも多々あります。そのため、普段から健康維持や体力づくりをしている職員が多いですね。身体的な面に加えて、ストレスとの向き合い方など精神的な部分も大切になってきます。この点は若いうちからできることでもあるので、今から始めておくと後々大きな意味を持つと思います。

そして、専門性を身につけることも大切です。大学の学部を選ぶときなど、友達に流されたりせずに、自分は何が好きで、何が苦手で、どの様な仕事が合っていそうなのかを自己分析して理解していくことが大切ですね。まだそこがはっきりしていない場合は、親戚や兄弟姉妹など、いろんな職業の社会人と話をしてみてください。今はインターネットでいくらでも情報が得られますが、自分で足を動かして人の話や経験を直接聞きにいくことが大切だと思います。また、国連職員になるために必要な能力を調べて、求められる人物像や能力を意識しておくといいと思います。例えば、リーダーシップという能力基準を満たすためには、どんなに小さなことでもいいので、人をまとめて率いる経験を積んでみるなど、学生のうちからできることをやっておくといいかもしれません。

最後は、日本人が一番心配しがちな英語力に関しては、私は本当に心配しなくていいと思っています。国際機関では、綺麗で上手な英語を話すより、伝える能力の方が大事になってきます。日本人だからといって引け目を感じる必要は全くなく、物事を伝える力がカギになります。また、英語4技能のうち一番使うスキルはライティングだと思います。各国政府やその他国際機関などからいただいた資金の報告書作成や日々のメールなど、英語でのライティング力は一番必要になってきますので強化しておくことおすすめします。 

 

インタビュー後記(インターン 志水千紘)

日本で教育現場に立たれていたご経験や、カンボジアやラオスの教育の状況を実際に見てきた明菜さんからこその、すべての子どもたちの教育の実現への強い信念を感じました。また、様々な国際機関をご経験されてきた明菜さんから、今から始められることや、今後のキャリア構築の選択肢や可能性について力強いメッセージをいただき、私も勇気づけられましたし、この先国際機関を目指す若者の背中を大きく押してくださるのではないかと思います。