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UNICEF日本人職員インタビュー

 

第3回 リベリア事務所 薄井さやか

© UNICEF Tokyo/2011/Ai Yamashita

経歴

大学卒業後、(公財)日本ユニセフ協会、民間商社勤務を経て英国イーストアングリア大学大学院にて教育と開発の修士号取得。2006年にNGOにてパキスタン北西辺境州での震災後復興支援(ノンフォーマル教育分野)、2007年にユネスコ イスラマバード事務所にて成人識字教育データベース作成と教育開発データマネジメント、情報コミュニケーション担当官代理、データアナリストとして勤務後、2008年から在ウズベキスタン日本国大使館にて草の根無償資金協力外部委託コンサルタントとして勤務。2011年3月より現職。

 

国連職員(UNICEF)で働くようになった/働きたいと思うようになった経緯についてお話していただけますか?

意外かもしれませんが、実は海外に対してあまり関心が強いほうではありませんでした。初めての海外渡航も、サーフィンが目的だったくらいです。将来に対しては、漠然と「両親のように教員になるんだろうな」くらいにしか考えていませんでしたね。
そんな私の人生を変えたのは、恩師からいただいた一枚のプリントでした。当時話題になっていた「世界がもし100人の村だったら」という絵本の抜粋です。世界を100人の村だとすると、その中で大学教育を受けられるのはたった一人だということを知りました。大変な衝撃でした。
私は大学の学費、生活費ともに両親に援助してもらい、それなのに特に真剣に勉強をしてきたわけでもありませんでした。そのことに対する強烈な自責の念に加え、自分が恵まれた環境にあることに気づかずに21年間生活してきたことに対し非常な後悔の念に駆られました。そのときすでに卒業を控えた大学4年生の秋でした。
一枚のプリントをきっかけとした、「自分がもし何かできるのなら世界のために役立てるような人間になりたい」という強い意志が、現在の私につながっています。
今でも、恩師にもらったプリントは財布に入れてあります。

 

リベリア事務所で働くことについてどのように感じていらっしゃいますか?

当初は別の事務所に派遣される予定でしたが、ご縁があってリベリア事務所勤務となり、今ではとても幸運だったと感じています。つい最近、リベリア政府が初めて自国の力で実施した大統領選挙で、アフリカ初の女性大統領であるサーリーフ大統領が再選を果たしました。そして2011年度のノーベル平和賞にはリベリアより二人の女性が選ばれました。サーリーフ大統領と、平和活動家であるボウイーさんです。今後さらに国際的な関心も高まるのではないかと感じています。

このような嬉しいニュースがある一方で、14年に及んだ内戦は未だに社会に爪痕を残しています。リベリア内戦が終結して8年が経過しましたが、内戦勃発に伴い教育の機会を奪われた子どもたちが現在のリベリア社会の青年層を構成し、社会問題となっています。彼らは「失われた世代(Lost Generation)」と呼ばれており、就ける職業も非常に限られているのです。失業率もとても高いです。教育は国家を担って行く世代の育成に欠かせません。それをまさに痛感しています。

 

薄井さんが国際協力にご興味を持たれたきっかけは教育でしたね。ご自身が教育に情熱を注がれる理由、教育の重要性についてもう少しお話いただけますか?

両親が教員であったこともあり、教育は「受けることができて当たり前」という意識でした。それを根本から覆したのがあのプリントの中の一文でした。平和構築の分野ですと、教育はまさに国家再建の「要」であると考えています。紛争が終結しても、国家の担い手となる若い世代がいないと国家再建はできません。それが今私たちがリベリアで直面している問題なのです。だからこそ、緊急事態のもとでも教育事業をなおざりにしてはいけないと思っています。
そして、紛争などの諸要因がなくとも教育は非常に大切です。読み書きができないと、アクセスできる情報の量が極端に限られてしまい日常生活にも影響を及ぼします。パキスタンで識字教育に携わっていた際に学んだ例の一つですが、ある男性が病にかかり、妻が薬を買ってきました。しかし薬だと思って飲んだものは実は殺虫剤だったのです。残念ながらその男性は亡くなりました。夫婦は二人とも読み書きができなかったのです。読み書きができないことで命を奪われるというのは日本にいると信じ難いかもしれませんが、このような事態が起きている国がまだ世界にはたくさんあるのが現実です。


UNICEFリベリア事務所の活動と、薄井さんのお仕事について教えていただけますか?

UNICEFは1966年にリベリアでの支援を開始、事務所は1991年に開設されました。現在の主なプログラム分野は子どもの生存と発達(保健、栄養、水と衛生)、子どもの保護、そして教育です。分野横断的な活動としては、情報コミュニケーションと広報、モニタリングと評価、HIV/AIDSなどに取り組んでいます。各分野においてそれぞれ関係する省庁と緊密に連携を図りながら活動しています。
当初はリベリア児童を対象とする通常プログラム担当ということで着任しましたが、2010年末から続いていたコートジボアールの政治的混乱により、着任初日から緊急援助業務、特に緊急下の教育事業に携わっています。現在まで、業務時間とエネルギーの大部分を緊急下の教育(Education in Emergencies)関連の業務に費やしています。

 

緊急援助のご経験についてお話いただけますか?

以前パキスタンでも2006年に発生した大地震後のオペレーションに携わりましたが、着任した時点で震災からすでに1年が経過しており、復興への移行期にありました。そのため、現在携わっている緊急援助とは性質が異なります。紛争等による難民発生という状況下での緊急援助に携わったことがなかったので全てが学びの連続でしたが、緊急下でも教育がいかに大切な分野であるかということを自分自身も強く再確認できた貴重な機会だったと感じます。本来であれば、特に紛争などによる緊急事態というのは起こるべきではない、起こらない方が良いことです。ですから、緊急援助の経験というのは自ら予測して経験を積める分野ではないと思っています。不幸にしてそのような事態に陥ってしまった国のニーズに、自分自身の状況が合致した場合にのみ、緊急援助の現場で経験を積むことができるのでないかと思います。

 

日本政府が支援しているUNICEFリベリア事務所でのプログラムについてお話しいただけますか?

UNICEFリベリア事務所は、様々な分野において日本政府より継続的なご支援をいただいております。その中でも、現在進行中の「子どもにやさしい学校」建設プログラムと、小児感染症予防プログラムについてご紹介させてください。
つい先日、リベリアを兼轄している在ガーナ日本国大使館の方を学校建設の現場視察へご案内しました。私たちが現場へ行くと、コミュニティの子どもたちが迎えてくれ、住民たちも私たちの訪問を歓迎してくれました。
リベリアでは公式には小学校教育の無償化が行われていますが、就学年齢である6歳で学校へ入学できる子どもは非常に少ないのが現状です。給食費や制服代など、授業料以外に必要な費用のために、貧しい家庭の子どもたちは学校へ行くことができません。さらに、家と学校の距離が遠い場合には、特に女子児童を持つ親は通学時の安全面で懸念を抱きます。これも子どもたちが学校教育を受けることを阻む要因の一つです。
学校建設プロジェクトは現在進行中ですので子どもたちの多くはまだ仮設の校舎で学んでいますが、それぞれの建設予定地で学校が完成していくにつれ、より多くの子どもたちが教育の機会を得ることができます。学校は授業を受ける場というだけでなく、子どもたちに安全な環境を提供する場でもあります。特に紛争のような緊急事態の下では、学校は身体的・心理的な搾取や虐待の危険性から子どもたちを保護する役割を果たすとともに、日常性を取り戻すきっかけや、トラウマからの回復にも役立ちます。学校建設プロジェクトには各建設予定地の住民の方々からも強い期待が寄せられています。
小児感染症予防プログラムについては飛躍的な向上が見られます。例えば、2009年度のポリオ発生件数は11件、2010年には2件にまで減少し、2011年度にはついに1件の発生も確認されませんでした。日本政府にはポリオワクチンだけでなく、予防接種に欠かせないコールドチェーン(ワクチンを低温で保ち、保管、輸送するための仕組み)についてもご支援いただいており、リベリア政府保健省からも感謝の言葉をいただいています。

 

最後に、薄井さんご自身の今後の展望、日本政府の支援に求めることなどをお話していただけますか?

これまでは緊急援助に時間とエネルギーのほとんどを費やしてきましたが、今後、難民支援オペレーションそのものが、「継続中の緊急事態」という段階から「早期復興・通常の長期開発への移行期」という段階に入っていくことが予測されます。一つひとつの業務にゆとりを持ち、質を高め、長期的な教育開発へとつなげていけたらと考えています。
また、緊急下の教育支援についても政策レベルで貢献できるようになりたいと考えています。残念ながら、人道支援の現場において教育分野は必ずしも優先順位が高いわけではありません。教育が命に直結しない分野であるという認識がまだまだ強く、水や食糧、シェルターなどに比べると十分な支援をいただけない場合が多くあります。しかし先ほどもお話させていただきましたように、教育支援は緊急下であっても、また、緊急下だからこそ、子どもたちを差し迫った危険から守り、未来への希望をつなぐ重要な分野なのです。
日本は緊急援助における教育への支援を公式に表明している数少ない国家のひとつです。長期的な視点から教育の重要性をご考慮いただき、今後も継続してご支援いただけましたら幸いです。

 

インタビュアー 山下藍 (UNICEF東京事務所インターン 東京大学大学院修士課程在籍)


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