第53回 ジンバブエ事務所 橋本 優人
調達・物流担当官
民間企業に就職後、米国の大学院にて修士号を取得。UNOPS駐日事務所でのインターンシップを経て、2021年よりJPO制度を通じて現職。

現在、どのような仕事をしていますか。
現在はUNICEFジンバブエ事務所の調達・物流担当官として、主に、子どもの権利を守るUNICEFの活動に必要な物資やサービスを調達する仕事をしています。具体的には、教育や保健、栄養、水と衛生、子どもの保護など、幅広い分野において必要なものを取り扱っており、教科書から井戸の建設にいたるまで、多岐にわたっています。また、国事務所での調達の仕事には、物の調達、物のロジスティクス(物流)、サービスの調達という三つの柱があり、それぞれの仕事に携わっています。UNICEFは公的な機関であるという性質上、調達に際して透明性や公平性などが担保されていることも重要であり、調達の手続きがガイドラインに沿って正しく行われているかどうかプロセスをチェックしています。これらの仕事に加えて、持続可能な調達や、障がいやジェンダーなどに配慮した調達も担当しています。
これまでのキャリアと、UNICEFで働こうと思ったきっかけを教えてください。
日本で生まれ育ち、帰国子女でもなく高校まで地元の公立の学校に通い、約30年間日本で暮らしてきました。初めての海外経験は、19歳の時に大学の語学研修で訪れたフィリピンでした。そこで機会の不平等を目の当たりにし、私は19年間も日本の恵まれた環境で暮らしてきたのに、その有難さにも気付かず、のうのうと生きていたことに恥ずかしさと怒りを覚えました。この経験が国際協力を目指した原点です。その後、旅行者としてではなく生活者の視点でより現地の問題を理解して行動に移したいと思い、英語の勉強等に励み、大学3年生の時にフィリピン大学へ交換留学をしました。留学期間中は、国際協力の多様なアプローチを実際に体験して進路の方向性を考えようと思い、NGOのボランティア、国際機関の訪問、ソーシャルビジネスでのインターンなどに挑戦しました。NGOではストリートチルドレンの支援を行うボランティアに参加しました。また、アジア開発銀行(ADB)や国際協力機構(JICA)フィリピン事務所などの国際協力機関を訪問し、職員の方からお話をお伺いしました。一方で、ビジネスからのアプローチにも関心があったため、社会起業家の方の元で、スラム街で生まれ育った青少年を雇って精神的・経済的自立を促すレストランを立ち上げる団体にて実際に起業に携わるインターンシップに参加しました。これらの経験を通して、それぞれのアクターが持つ得意分野と不得意分野を学びました。もちろんアクターに優劣はなく、最終的には自分が誰のために、どんな貢献をしたいのかという視点と時間軸で考え、まずはビジネスで力をつけお金も貯めてから、大学院を経て、いずれは国際機関で最もぜい弱な人々、とりわけ子どもたちが平等に機会を得られる社会の実現に貢献したいと思いました。
こうしたキャリアプランのもと、2012年に大学を卒業してからは、民間企業で経験を積むため外資系メーカーで5年ほど働きました。国際機関で経験を活かすことができるのではという思いから、初めにロジスティクス部門に所属し、その後調達部門に異動しました。退職後、アジア経済研究所開発スクール(IDEAS)で開発学を1年間学びつつ大学院留学の準備をし、IDEAS修了後にアメリカの大学院にて国際開発政策の修士号、サプライチェーンマネジメントの修士号を取得しました。大学院修了後は、国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)駐日事務所にてインターンシップを半年ほど行い、ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)制度を利用してUNICEFジンバブエ事務所に調達・物流担当官として着任しました。
UNICEFで働こうと思ったのは、UNICEFの使命である子どもの権利を守るということが、私が長年情熱を持ち続けてきた分野にマッチしていたからだと思います。大学時代の経験が原点となり、卒業後も企業で働くかたわら、週末は大学で教育のボランティアを7年ほど続けました。キャリアのアドバイスなどを通して、学生さんの可能性を最大限に引き出すお手伝いをさせていただきました。数えてみると計3,000時間ほど働きながらボランティアを続けていたので、それくらいコミットできるほど情熱を傾けられる分野だったのだと後から実感しました。特に初めて訪れたフィリピンでの経験から、私は人々が生まれ育った場所に関わらず、自分の可能性を最大限に引き出せる、機会平等の社会の実現に貢献するという夢を持っています。そのため、可能性のかたまりとも言える子どもたちに焦点を当てて活動しているUNICEFには自然と共感を覚えました。教育は分かりやすいですが、子どもたちの可能性を引き出すためには、水と衛生や保健、栄養など、多面的なサポートが必要で、調達・物流の側面からこれらすべてのプログラムに貢献できるのは有り難いですね。調達・物流の仕事は他の団体にもありますが、最も情熱を持って働けるのはUNICEFだと思っています。

ジンバブエ事務所での仕事で最も印象に残っていることはありますか。
ジンバブエで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンを届ける活動に携わったことが、特に印象に残っています。子どもの権利を守るためには、親や教師も含めた人々の健康はとても大切な要素の一つです。COVID-19のような今まさに世界が直面している課題の解決に貢献できたのは、UNICEFで働いているからこその経験だと思います。ワクチンを他の国からジンバブエに輸送するには、税関を通過するために政府機関から様々な書類を迅速かつ正確に準備してロジスティクスの手配をしなければいけません。特にワクチンは温度管理が不可欠のコモディティであるため、コールドチェーンが未発達なジンバブエでは、特に細心の注意を払って輸送手配をする必要がありました。このような困難を乗り越えて、ワクチンを必要な人々のもとに届けることができたことは、大きなやりがいを感じる瞬間でもありました。
今後取り組みたい仕事や領域はありますか。
一度は緊急支援の現場に立ってみたいと思っています。ジンバブエもコレラや干ばつなど緊急事態が発生することは多いですが、さらに厳しい現場に身を置いて、その厳しい環境で苦しんでいる子どもたちのために働きたいですね。UNICEFは国連機関の中でも現場に近い組織なので、今日明日の生活に困っている子どもたちの権利を守るために働くことができます。機会があれば、是非挑戦してみたいと思っています。少しの勇気と家族の応援が必要な仕事ですが、私自身がチャレンジしていく姿勢を忘れたら、子どもたちのために自信と誇りをもってこの仕事に取り組めなくなると思うので、挑戦する姿勢は保ち続けていきたいです。
同時に、サステナビリティの仕事にも一層取り組んでいきたいと考えています。子どもたちに持続可能な地球環境を残すということは重要かつ喫緊の課題なので、小さなことでも自分自身ができることを考えて行動していきたいと思います。これまでの取り組みの一例として、私が修了した大学院とUNICEFが協働して、CO2排出量削減のためにジンバブエ国内の物流ルートを最適化する研究プロジェクトを行いました。これからも自分のできることから貢献を続けたいと思っています。

UNICEFで働くことを目指す若者へメッセージをお願いします。
偉そうなことを言える立場では全くないのですが、少しでも参考になればとの思いで私が大切にしている三つの視点を共有したいと思います。
一つは、目的を明確にすることです。UNICEFで働くことを目指すにあたって、まずはなぜUNICEFで働きたいのかを明確にしておく必要があると思います。誤解を恐れずに言えば、UNICEFで働くことは手段であって、UNICEFで働くということを通して実現したい夢や目的があるはずです。私の場合は機会の平等の実現という、自身の経験に基づいた夢を達成するためにUNICEFで働いています。ぜひ、働くことで皆さんが成し遂げたいことは何か、そのために最適な場所はどこか、改めて考えてみてください。
二つ目は、誰のためか、という視点です。なぜこの仕事をしたいのか?と問われたとき、自分は○○をしたいからだと思うことは自然なことだと思います。私自身も、自分のことがまず一番に思いついてしまいます。海外で仕事がしたいから、専門性を活かしたいから、またはお金を稼ぐ必要があるから。個人的な希望や欲求も含めて色々あると思います。自分自身を離れたところに夢もないので、これらを否定する必要はありません。一方、民間企業で働くにしても、大学で研究するにしても、UNICEFなど国連機関で働くにしても、仕事は誰かのために行っています。お金を稼ぐという必要性や、個人的な欲求を満たすという次元にとどまらず、仕事が自分以外の他者のために存在しているという視点もあるわけです。何のために働くか、なぜUNICEFで働くかを考える際、この仕事は誰のためか、自分は自分自身に加えて誰のために力を使いたいと思うのかを考えるのは、私が大切にしている視点です。
そして三つ目は、何のため?誰のため?を考えるにあたり、頭と体と心という視点をお伝えしたいです。必ずしも分ける必要はないかもしれませんし順番は重要ではないのですが、私は本当に納得できる選択をするために、論理と経験と感情(信念)の面で決めています。例えば、なぜUNICEFで働きたいのかについて、まずはノートに書き出したりして、論理的に頭で納得できる理由があるのかを明確にします。次に、自分のこれまでの経験に照らして納得できるのかも考えます。なぜなぜを繰り返したとき、強く理由を支えているのは自分の実体験に基づくことが多いです。そして最後に心から本当に納得できるかどうかについて自問します。どれだけ論理的で経験に即した理由でも、自分の価値観や信念が伴っていないと、心はついてこないと思います。私はフィリピンで目にしたストリートチルドレンやソーシャルビジネスで関わった具体的な目の前の一人ひとりの姿から、不平等な社会に対する義憤のようなものが自分の感情を突き動かしています。
この記事を読んでくださった皆さんが、何のために誰のために働きたいのかを明確にし、頭と体と心で納得した上で、皆さんにとってベストな道へと進めることを願っています。
インタビュー後記(インターン 山内梨湖)
私も橋本さんと同じく、フィリピンでの経験がきっかけで国際協力を志すようになったため、自分の想いや経験と重ねながらお話を伺いました。大学時代の経験から得た自身の情熱を絶やさず持ち続け、実現したい夢に向かって努力をされてきた姿に、強く感銘と刺激を受けました。お伺いしたお話や三つの視点を参考にして、橋本さんのように、自分以外の誰かのために情熱を持って貢献できるようになりたいと思いました。