第65回 ニューヨーク本部 景山健
財務専門官
国内大学を卒業し、米国大学院でMBAの修士号を取得。米国公認会計士。民間企業で勤務後、NGOで南スーダン、シリアとその周辺国の人道支援に携わる。その後、UNHCR のUNVとしてタジキスタンに駐在し、JPO制度を通じてUNICEFニューヨーク本部の財政管理局での勤務を開始。2020年に公的パートナーシップ局に異動し、2023年4月よりブリュッセルにて現職。

現在、どのような仕事をしていますか。
UNICEFニューヨーク本部公的パートナーシップ局から派遣され、ブリュッセル事務所で財務専門官として働いています。UNICEFの公的パートナーシップ局は、UNICEFと公的機関との連携を担っており、大きく分けて二つのチームに分かれています。UNICEFと各国政府の二国間パートナーシップを担当するチームと、国際機関と受益国の多国間パートナーシップを担当するチームです。私は、両方のチームの財務分析、財務システムの運用、予算管理などを担当していますが、特に収入分析・予測に深く関わっています。
UNICEFの収入分析についてですが、UNICEFの活動資金は、主に各国政府を含む公的機関からの任意拠出金と、民間の皆さまからのご寄付に支えられています。拠出金には、支援先の国や地域、分野を限定しない「通常予算」、主に開発のプロジェクトを指定する「その他の予算(一般)」、緊急人道支援のプロジェクトを指定する「その他の予算(緊急)」があります。そして、「その他の予算」には、分野ごとに柔軟に使用できる予算がそれぞれ設置されています。これら拠出金の収入分析をもとに、内外に情報を提供し、危機に直面している子どもたちの権利を守るために、最も有効な拠出方法を呼びかけることが私の仕事です。
もう一つの仕事は、公的機関からの収入を予測することです。UNICEFは4年ごとに予算を策定していますが、この予算のもととなっているのが収入予測です。具体的には、公的パートナーシップ局が集めた情報をもとに分析を行い、次の5年の収入予測を立てます。UNICEFの2022年の収入は約93億米ドルで、そのうち70パーセントが公的機関からの拠出金でした。この収入予測は、UNICEF全体の予算に大きく影響を与えるため、上層部と協議をしながら慎重に決定します。
UNICEFを目指そうと思ったきっかけを教えてください。
大学生の時に国際機関に興味を持ったことが、UNICEFを目指したきっかけです。私は高校まで野球中心の生活を送っていて、将来の仕事について考え始めたのが大学に進学してからでした。大学で元国連難民高等弁務官の緒方貞子さんのドキュメンタリー番組を見て、かっこいいな、この人のように人の命を守れる仕事に就きたいなと思うようになり、国際機関に興味を持ちました。そしてこの頃に、興味のあった財務を自分の専門にしようと決めました。
大学院を修了して民間企業で働き、NGOで南スーダン共和国の現地での緊急人道支援をしました。その後、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の国連ボランティア(UNV)でタジキスタン共和国でのアフガニスタン難民支援に携わり、東京に戻ってからは、別のNGOでシリアとその周辺国での人道支援に従事しました。このような経験をする中で、改めて人道支援を行っている国際機関を目指すようになり、そのひとつがUNICEFでした。希望が叶い、外務省のJPO(ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー)試験に合格して、2017年にUNICEF本部の財務管理局の予算部門に派遣されました。
私のキャリアに大きく影響を与えた出来事は、南スーダン駐在中に、紛争から逃れてくる避難民のための仮設避難所の設営や生活物資の配布、またスーダンから南スーダンへの帰還民に水と衛生支援を行っていたときのことです。現場で支援物資を運んでいると、小さな子どもを抱えた避難民の方々が口々に「本当にありがとう」と泣きがながらお礼を伝えてくれることがありました。この光景が今でも忘れられず、私のキャリアに大きな影響を与えています。

ニューヨークやブリュッセルなど、UNICEFでは本部に属する部署でのご経験が長いと伺っています。本部で働くことの醍醐味を教えてください。
UNICEFの財務活動全体を俯瞰できる点が、UNICEF本部で働く醍醐味ではないかと思います。また、本部の財務部門と連携しながら仕事を進めていく面白さもあります。
俯瞰できるという点で例を挙げると、UNICEFの収入は2012年からおよそ2倍以上に増えています。紛争、気候変動、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの影響から子どもたちを守るために寄付が多く集まり、日本政府も拠出金を大きく増やしました。しかし、支援先の場所や分野を指定しない「通常予算」の額はあまり増えていません。二つ目のグラフで総収入の割合をみると、2002年には「通常予算」が49 パーセントを占めていましたが、2022年には14パーセントにまで比率が下がっています。これには、開発支援と緊急人道支援のための「その他の予算」が増えていることなどの影響がありますが、この状況は、地域問わず、すべての子どもに大規模に支援を届けるというUNICEFの使命が危険にさらされていることを意味します。


UNICEFはすべての種類の拠出金に対して非常に感謝しています。しかし、使途を指定した拠出金はその事業対象の子どもたちへの支援に役に立つ一方、対象の子どもや分野のニーズ以外への対応にその拠出金を使うことはできません。
UNICEFの使命とは、母親の妊娠から子どもが青年期に達するまでの幅広いニーズに対応することです。これを達成するためには、柔軟性の高い「通常予算」及び分野別の柔軟な資金をさらに増やすことが必要不可欠と考えています。特にここ10年では、人道危機がとても多く起きているように思います。年の途中に起きた危機や自然災害に対して、事前に正確な予測をすることは難しく、拠出金の使途が決まっていると、緊急人道支援の対応が難しくなります。ですから、14パーセントにまで下がってしまっている「通常予算」の比率に危機感を持っています。
そのような中、特に日本の個人や民間からの募金を集める日本ユニセフ協会は長い間、プロジェクトの使途が決まっていない「通常予算」の拠出に非常に大きく貢献してくださり、世界中の子どもたちのためにUNICEFの活動を支えてくださることは素晴らしいことだと思っています。このように、UNICEF全体の財務状況を俯瞰できることが私の仕事のやりがいです。
UNICEFで勤務しながら子育てをしていると伺いましたが、ワークライフバランスに関し心がけていることやUNICEFのサポートについて教えていただけますか。また、仕事上心がけてきたことはありますか。
7歳の娘と5歳の息子がいます。私は、合計8週間の育児休暇を取得しました。ワークライフバランスに関しての私の考えは、UNICEFで働き始めてから変わったように思います。日本で勤務していた時は、意識しなければワークライフバランスを考えることができませんでしたが、UNICEFで働き始めてからは普通のことのように考えるようになりました。朝、子どもを学校に送って仕事をはじめる。子どもの学校行事のため午前休を取って参加する。同僚もそれを当たり前のこととし、いってらっしゃいと温かく送り出してくれます。意識しなくてもワークライフバランスが取れるようになったのではないかと思います。
組織としてのUNICEFのサポートはもちろんですが、同僚同士で支え合う文化も強いと感じています。私のチームも多様な国籍を持つ職員で構成されていますが、一人ひとりがその違いを認め、尊重し、一致団結して世界の子どもたちのために働いています。JPO時代や今も同僚にとてもサポートしてもらっていますが、どうすればその良い影響を周囲に広げていき、同僚が働きやすくなるのかを考え、自分がもらったものを返しながら仕事をするよう心がけています。

UNICEFで働くことを目指す学生や社会人へのメッセージをお願いします。
人生は長いようでとても短いように思います。あっという間に20代になり、30代が終わろうとしています。子どもができて子育てをしているうちに、40代、50代と、すぐに月日が経っていくのだと思います。もし国際機関に少しでも興味・関心があれば、一度国際機関で一緒に働いてみませんか? UNICEFを含む国際機関では、財務、経理、総務、人事、企画、物流管理、IT、広報など、民間企業の経験や能力が重宝される職種も多いです。数々の日本人職員インタビューでご覧の通り、職員の全員が子ども保護の専門家、医者、教育や法律の専門家というわけではなく、民間企業にあるような管理部門の仕事もあります。
また、UNICEFは国際機関の中でも大きな組織であり、多くの国に拠点があります。私自身、ブリュッセルへの異動がありましたが、模範と思える上司の下で働くことができ、同僚にも恵まれ、とても働きやすい職場だと思っています。そして、国際機関の中でもUNICEFの特色とも言えると思いますが、ライフステージや、結婚や出産などで家族形態が変わっても、長期的にキャリアが構築しやすい職場だと思います。皆さんと、近い将来一緒に仕事ができるのを楽しみにしています。
インタビュー後記(インターン 清水春菜)
健さんは高校までプロ野球選手を目指され、大学在学中に財務を専門とした国際機関の仕事を決意されたという、その決断力や実行力に驚きました。インタビュー中はとても親しみやすく話してくださり、UNICEFの資金の説明のためにグラフを用意してくださったりと、読者の方々への心遣いが感じられました。そんな中、柔軟な資金の重要性を強調されていて、すべての子どものニーズをサポートするという健さんの強い使命感が伝わりました。また、決断力と実行力を兼ね備えられた健さんからの「人生は長いようでとても短いように思います」という言葉を伺った時、行動を起こし前進する時期は今、と勇気をいただけたと思います。