第58回 東アジア・太平洋地域事務所 浅野さゆり
人事マネージャー
米国の大学を卒業後、大学院で環境経済・ビジネス管理(MBA)の修士号を取得。日本と米国にて民間企業で5年勤務した後、2013年にJPO制度でUNICEF物資供給センターの人事部に入職。ニューヨーク本部を経て、2022年3月から現職。

現在、どのような仕事をしていますか?
東アジア・太平洋地域の14カ国を管轄するUNICEF東アジア・太平洋地域事務所で、人事マネージャーとして、人材育成を担当しています。各国の国事務所から提供される人材育成に関する情報や必要な人材のニーズをまとめ、人材研修の企画から実施までをサポートしています。職員のキャリア開発を支援するプログラム作りも大切な仕事の一つです。
また、UNICEFの全事務所の職員に対する、職場環境や仕事への意識に関するアンケート調査から、地域の国事務所職員の意見を分析し、改善点を見つけて、オンライン研修を行ったり、新しいプログラムを計画して実施したりしています。例えば、多数の職員からキャリア開発の機会がもっと欲しいとの声があり、職員のキャリア開発の一環として、他の地域事務所の人事担当者と一緒に、別の事務所の職員と入れ替わって短期間仕事を経験するという制度を立ち上げました。様々な地域で働く職員が、所属する事務所の国だけでなく、他の国や地域の職員と入れ替わって別の仕事を経験することができるプログラムで、この制度の人事の調整も行っています。
そして、人道危機が発生した際に迅速に緊急支援を展開するため、他の国で働く職員を支援に派遣するための調整や、必要に応じた研修も行っています。地域事務所に勤めているため、各国事務所の人事担当者の質問に答えたり、助言を行うことも私の仕事の一部です。

これまでのキャリアと、UNICEF で働こうと思ったきっかけを教えてください。
小学校6年生ぐらいの時に見た映像がきっかけでした。私は父親の仕事の関係で当時アメリカで暮らしていたのですが、毎週末買い物に行っていた大きなショッピングモールで、フィリピンの子どもたちがゴミの山を漁っている映像を目にしました。それが当時の自分にとってとても衝撃でした。自分は必要なものがすぐ手に入るし、教育もちゃんと受けられているけれど、世界にはこんなにも自分と異なる生活をしている子がいるんだと、不平等さに衝撃を受けました。そこから漠然とですが、貧困や子どもの権利に関わる仕事ができたらいいなと思うようになりました。そのときはまだUNICEFで働きたいとは思ってなかったのですが、高校生ぐらいの頃から国際機関で働きたいと考えるようになりました。どうしたら働けるのかを調べ、人事やIT、教育、水と衛生など、いろいろな職種や専門領域があることを知りましたが、高校生の時点では何がしたいのか結論が出ず、環境に興味があったので環境経済を学べる大学に進学しました。
大学では、色々なボランティアやインターンシップを経験しました。自分がどういった形で子どもの権利や貧困撲滅に貢献したいのかが分からなかったので、手当たり次第にいろんなボランティア経験をしました。その時のインターンの一つが人事の仕事で、大学のインターン生の採用や学生の教育プログラムを作る仕事に関わりました。それがものすごく楽しかったんです。その頃から、どの企業や団体でも、人材が一番大切なのではないかと考えるようになりました。
その後進学した大学院では、人事にも興味があったのですが、環境への興味も捨てきれなかったので、環境計画とMBAの二つの修士号を取得するコースに進みました。大学院でも、民間企業やNGOなど、様々なインターンシップやボランティアに参加しました。将来的には国連で働きたいけれど、色々な空席情報から、国連は即戦力を必要としていると感じ、大学院卒業後は経験を積むために民間企業の人事の仕事に就きました。5年間働いた後にJPO(ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー)制度の試験を受けて32歳で合格し、コペンハーゲンにあるUNICEF物資供給センターの人事部に派遣されました。UNICEF物資供給センターは人材が豊富で、人事部にも15人ぐらい職員が所属しており、人事や人材教育、採用など、UNICEFにおける人事の仕事の基本を学ぶことができました。国連での人事として働くために必要なことをJPO期間に教えてもらえたので、その2年半は私にとってとても良い経験になりました。JPO期間中に産休と育休も取得しました。
その後、現在は行われていない取り組みなのですが、当時はNETI(The New and Emerging Talent Initiative)と呼ばれるUNICEF独自の若手育成・採用プログラムがあり、その枠組みに応募して、ニューヨーク本部のNETIマネージャーとして働くことになりました。その仕事をしていた際、人事異動を担当するプログラムの管理をしてみないかと声がかかりました。自分で応募したわけではないのですが、人事異動に関する仕事を一年半ぐらい担当した後、現在の事務所に異動しました。

人事の仕事を通して、UNICEFやUNICEFで働く人たちの特徴を感じることはありますか?
UNICEF職員の一番の特徴は多様性の尊重だと思います。多様な人たちが働いているので、どんな意見が出ても、まずはそういうこともあるね、と受け入れていく姿勢があります。他者への尊重の態度が素晴らしいなと思っています。私はアメリカで数年働いたのですが、ここまで辛抱強くみんなの意見を取り入れようとする態度は、他の組織ではあまり見受けられませんでした。また、向上心の高い人たちが多く働いていることも特徴だと思います。使命感を持って働いている人たちが多いので、目指していたレベルに到達できたら終わりではなく、更に何ができるのか、次のことを考えていく人たちが多いと思います。
UNICEFの組織の特徴としては、楽しく仕事をするという文化があると思います。何か失敗をしたとしても、次に繋げていこうと言えるような、ポジティブに仕事に取り組む人が多いです。最後に、女性も男性も、家族を大切にする文化が根付いていると思います。みんな子どもたちの幸せを願って働いているから、自分たちの家族も大切にしなくちゃいけないよね、という意識があって、家族と仕事のバランスを比較的取りやすいのかなと思います。
国際機関でのキャリアを目指す人が直面することの多い課題があれば教えてください。
国際機関のキャリアを断念する人がしばしば直面する課題として挙げられるのが、応募資格の条件の多さかなと思います。修士号や業務経験、専門性、第三外国語などの要件をクリアしていくのにどうしても時間がかかるので、人生計画を考える中で、他の道に移る方も少なくないだろうと思います。また、プライベートとの折り合いで迷われる方も多いと感じます。キャリアを築くのに時間がかかるということが影響して、結婚や出産など、家庭を築くタイミングを見極めるのが難しくなるということもあります。国連職員は国をまたいだ移動が多いため、家族との生活を考えたときに、やっぱり不安定だからやめようと考えられる方もいらっしゃると思います。もちろん人によっては、こういった移動を、色々な国・環境で様々な文化・人に触れて生活できる、貴重な経験と捉える人もいると思います。また、UNICEFでは配偶者サポートのプログラムもあって、異動になった職員の配偶者が新しい国での就職サポートを受けたり、他の職員の配偶者との繋がりを広げたりもできるようにもしています。個人的には、移動が多いということは、世界中に遊びに行ける、遊びに来てくれる友達がいて、楽しく豊かな人生につながるのではないかなと思っています。
別の観点で、他の企業や組織と比べて国連でキャリアを築くのが難しい点の一つに、入り口の特殊さも挙げられるかもしれません。国連において職を得るためには、国連での経験が優遇されるということが結構あります。国際機関で働いたことがない方にとっては、どうやってその入り口を探せばいいのか迷われる方もいると思います。まずは、興味がある分野で、そしてできる限り現場でボランティアやインターンをして経験を積むことをお勧めします。国連での経験でなくても、現場を知っていることは必ず強みになります。また、UNICEFでボランティアやインターンなどをすることは、自分のことをチームに知ってもらえる良い機会にもなり、正規採用の道へつながる可能性も増えていきます。
国連での仕事はいわゆるジョブ型の雇用形態で、一つの仕事に対する雇用期間はあまり長くありません。特に日本を含め終身雇用が身近なアジアの方にとっては、不安定さを感じる方もいると思います。しかし、こういった環境では、限られた時間の中で何を達成できるのか、何をしたいのか、何を学んで次へつなげて行くのかを常に考えている人も多く、お互いに励まし、刺激し合うことも多いです。また、UNICEF内だけではなく、他の国連機関への出向なども含めて、世界中に色々な自分が成長できる機会が多くあるので、同じ仕事をずっとするのではなく、色々経験して成長したい方には良い環境なのではないかと思います。
最後に、日本人の方が採用の際にしばしば陥っている、もったいないなと思う点に、面接が挙げられます。面接で過去の職場で何をしたかということを聞かれた際、チームではなく、自分が何をしたかを話す必要があります。しかし、特に日本人の方は自己主張ができなかったり、謙遜してしまう傾向があるので、それで面接に通らなかったりすることもあると感じています。

採用ルートによって、その後の働き方に違いはありますか?
国際機関の仕事を始めるには、インターンシップや国連ボランティア(UNV)、JPO、コンサルタント、空席募集など、いろいろな方法があります。採用ルートはあくまで入り口、きっかけにすぎません。それからどうするかは自分次第です。例えば、インターンで入って来たからキャリアが制限されるだとか、そういったことは一切ないです。どのルートで入ったかではなく、自分の経験や能力をどう生かしていくかということが大切です。
少し違う点をあえて一つ挙げるとすれば、ネットワークかなと思います。UNICEFではUNVに対するサポートもありますし、インターンシップはネットワークを築く有効な機会です。その中でも、特にキャリア面でのサポート体制が充実しているのがJPOです。個人的にはとても良い制度だと思っています。UNICEFでは、JPOにはオリエンテーションやメンター制度があり、自分の仕事以外に少し挑戦的な仕事を経験できるストレッチアサインメントという制度を利用できたり、キャリアに関する支援が充実していて、ネットワークも広がりやすいと思います。ネットワークがあると、情報の共有がされたり、仕事で困難に直面した時にも相談をすることができます。また、仕事は人とするものですから、ネットワークが広がっていくと仕事も楽しくなるという部分もあるのではないかと思います。
UNICEFで働くことを目指す若者・社会人へメッセージをお願いします!
私の経験からは、自分が好きなことを見つけるというのが一番かなと思います。最初から国連にこだわるのではなく、好きなことができるところで経験を積み、専門性を磨いて、気づいたら国連で働ける人になってる、というようなキャリアがその人にとっても幸せなのではないかと思います。私も今年で入職して9年になるのですが、自分の好きなことって続くんですね。もちろん、失敗することや落ち込むこともあるので、その時に気分転換できるような仕事以外の趣味を持つことの大切さも、最近感じています。
また、柔軟であることと、リスクをとることが求められます。国連は契約期間が短いため、ときにリスクを感じることもあると思いますが、若い頃は、柔軟に自分ができることから始めていき、やってみようという態度が大切だと思います。実際に行動に移し、好奇心を持ちながら、次に何につながるかを探していけたら素敵なのではないでしょうか。UNICEFは好奇心が強くて向上心がある人たちがたくさんいるので、とても楽しい職場です。是非自分の好きなことを見つけて、それにチャレンジしてほしいなと思います。
最後に一つだけ加えると、プラスアルファの部分、特に人間性のような部分を磨くことも重要だと思っています。専門性が大切なのはもちろんですが、それはあくまで最低条件です。最低条件に加えて、自分の提供できる強みがあることが大切だと考えます。例えば、UNICEFで大切にされているチームワークや他の人のために貢献する気持ち、不確実な状況の中で結果を出す力など、専門性プラス人間性が大切だということもお伝えしたいと思います。
インタビュー後記(インターン 佐藤 公彦)
人事という立場でUNICEFに関わってこられた浅野さんは終始にこやかで、楽しげにお話しをしていただいた姿が印象的でした。ご自身のご経験から、キャリアにこだわるのではなく、自分自身との向き合いを大切に、自分と相手とが気持ちよく働けることを大切にほしいというメッセージをいただき、あたたかく背中を押していただいたように感じました。