第54回 カンボジア事務所 ビルギッチ 坂本 敬子
企業パートナーシップ専門官
米国の大学・大学院を卒業。UNICEFニューヨーク本部でインターンシップを経験後、ラオスのNGOや東京の外資系コンサルティング会社に勤務。ボリビアの国連常駐調整官事務所を経て、UNICEFジュネーブ事務所、東部・南部アフリカ地域事務所に勤務。2022年3月より現職。

現在、どのような仕事をしていますか。
現在、UNICEFカンボジア事務所で企業パートナーシップ専門官という仕事をしています。UNICEFでは、「Business for Results (成果のためのビジネス)」という取り組みが 2019年から始まりました。それまでUNICEFは、度々企業と連携することはあったのですが、支援の多くは単発的で、パートナーシップの枠組みがさほど確立されていませんでした。この状況を踏まえ、さらに長期的かつ、将来を見据えた持続可能な戦略的パートナーシップの構築を目指し、この取り組みが始まりました。この取り組みを通して、企業をUNICEFの戦略的重要パートナーとしてUNICEFのプログラムにしっかりと位置付け、UNICEFと共同創造していける持続的パートナーシップの構築を目指しています。そしてその活動を支えるのが、企業パートナーシップ専門官です。
カンボジアにおける企業パートナーシップ専門官としての仕事は大きく分けて二つあります。一つは、UNICEFの重点プログラムにおいて影響力のある企業・業界を特定し、彼らにUNICEFの活動とその意義を理解してもらい、連携しながらプログラムを実施する仕事です。もう一つは、企業に対して彼らの事業とサプライチェーン上において子どもの人権を守ることの重要さを伝えていくアドボカシーと人権保護能力強化の仕事です。例えばカンボジアでは、「インターネット上の子どもの保護」というプログラムを通して、インターネット上での児童ポルノ等の児童の性的虐待および搾取の防止や対応体制の強化を実施しています。カンボジアでも、ソーシャルメディアが子どもたちの間で幅広く使われています。そういったソーシャルメディアを運営している企業と協議しながら、児童の性的虐待・搾取の被害を未然に防ぐための施策や政策提案を郵政省と共に取り組んでいます。この子どもの権利を守る施策や仕組みを作るプロセスに企業にも参加してもらうことにより、インターネット上において、技術的な側面から何が重要で実現可能なのかという、企業ならではの知見が反映されるだけでなく、企業・業界によるオーナーシップが構築されていきます。
民間企業へのアドボカシーで言うと、2012年にUNICEFは、セーブ・ザ・チルドレンと国連グローバル・コンパクト(2000年にコフィー・アナン元国連事務総長によって、持続可能なビジネスの促進を目指して立ち上げられた、企業を対象にしたイニシアチブ)と共同で、「子どもの権利とビジネス原則」を打ち出しました。これは「ビジネスと人権に関する国連指導原則」が元になっており、子どもの人権保護に特化した原則です。カンボジアでは、こういった人権尊重や持続可能な開発目標への関心が高い企業がまだまだ少ないため、民間企業の方々からしっかりとその重要さを理解してもらい、彼らの事業活動や取引関係の全般にわたり、職場、市場、地域社会や環境など、ビジネスにおいて人権尊重のメカニズムが導入されるようアドボカシーをしています。

これまでのキャリアと、UNICEF で働こうと思ったきっかけを教えてください。
UNICEF で働こうと思ったきっかけは、UNICEFでのインターン経験です。私は、コーネル大学大学院で公共政策を学び、UNICEFニューヨーク本部でのインターンシップの機会を得ました。インターンを通して、UNICEFが実際にどのような仕事をしているのか知ることができ、UNICEFの活動は明確で、その結果が鮮明に見えることから、組織として魅力的だなという印象を持ちました。
ニューヨークでのインターンシップ修了後、ラオスのNGOでJICAの草の根事業の一環である「一村一品運動」に従事し、農村ごとにそれぞれの特産品を開発し、小規模の起業家をサポートする仕事をしていました。NGO職員として働いた2年間で、持続的な開発における企業との連携の重要さを身に染みて感じました。地元の起業家に対して、一時的な出資や職業訓練を行う中で、その起業家たちが将来的にどのように自立して、どのように持続可能な事業を展開していくのかを模索する日々でした。
その後、東京の外資系コンサルティング会社に転職し、さらに企業連携の専門知識を深めるため、企業マネジメントの基礎を身に着けました。一時期は「持続可能な開発目標(SDGs)推進室」という部署に配属され、実際に官民パートナーシップの構造を社会貢献に活かす機会を頂きました。企業がサプライチェーン上においてどのように人権を守っていけば良いのか、どのように開発途上国における市場開発を行い、それがどのようにコミュニティの生活改善に繋がっていくのかなどを考え、数多くのやりがいのあるプロジェクトに関わる機会を頂きました。
4年間コンサルティング会社で働いた後、UNICEFでのインターンシップのときの想いもあり、外務省が開発分野でのキャリアを目指す日本人を対象に実施している、平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業の「プライマリー・コース」に応募して、1年間、南米のボリビアで国連ボランティアとして働きました。この時、初めてスペイン語での業務を担当し、第三言語で仕事をするという、とても困難ながらもやりがいのある経験をしました。官民パートナーシップ専門官として、国連常駐調整官事務所で「国連グローバル・コンパクト」の立ち上げ業務に携わり、政府と企業と連携しながらSDGs達成を促進する活動を行いました。立ち上げ業務として、SDGs のテーマごとの委員会の設立やSDGsに貢献している企業のプロジェクトを表彰し、持続可能な社会実現への機運を上げていくなど、様々な取り組みを行いました。
その後、ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)制度を利用して、UNICEFの ジュネーブ本部で2年半ほど働きました。ここでは、民間協力渉外局に所属し、「成果のためのビジネス」事業の立ち上げに関わっていました。また、広報チームでの仕事も経験し、他国の事務所と連携しながら、 様々な企業とのパートナーシップにおける広報戦略・計画の協議、また支援を頂いているパートナーが彼らの広報活動に利用できるようなUNICEFの活動に関する現場の動画や写真、記事の作成等を担当しました。
その後、UNICEF東部・南部アフリカ地域事務所で企業パートナーシップ専門官としての勤務を開始しました。コロナ禍だったということもあり、ジュネーブからリモートで半年ほど、同地域21カ国における、「成果のためのビジネス」事業を軸とした民間連携推進の仕事をしました。その後、現職であるUNICEFカンボジア事務所の企業パートナーシップ専門官に着任しました。

仕事の原動力や、やりがいは何ですか。
一番感じるのは、今まで企業はあまり開発の世界で重要視されてこなかった中、企業という新しい仲間と共有価値の創造をするという面白さ、前例が少ない中でも想像力を働かせ、一緒にWin-Win(ウィン・ウィン)の関係性を創り出す楽しさです。現在、世界が多様な開発問題に直面する中、企業にしか持ちえない特有な付加価値をどのように問題解決へ活かしていくのかがますます重要となってきます。また、企業は事業のサプライチェーンにおける人権問題と向き合う責任があるという認識を、今後さらに広める必要があります。実際に、企業の社会的責任(CSR)に関する取り組みは、今まで多くの企業や組織が行ってきており、CSRから共有価値の創造(CSV)へ移行する中で、国際開発に貢献することの意義を再確認している企業が増えてきていると感じています。しっかりと時間をかけ、チームの人々と協議をしながら、今までに無い事業の形を形成していく過程に私はやりがいを感じています。CSVの原理を踏まえて、UNICEFと企業の間でお互いが納得できる新たな価値を創造し、共有するモデルを促進していきたいと考えています。
大学院卒業後、数多くのキャリアを積まれています。国連職員として働くまでの過程の中で大切な事を教えて下さい。
国連では多様な文化の人々と仕事をするので、 国際的な環境において、偏見を持たず、尊重の心を持ちながら何事にも対応する姿勢が求められています。本当に色々な人がいるので、日本人としてびっくりする事や、オランダ育ちとして驚く事は日々沢山ありますが、視野を広げ、多様な文化や環境を逆に楽しめるような心の大きさはすごく重要だと感じます。
また、現場経験を何処かの段階で積んでおくことはとても大事です。本部や地域事務所は国事務所が現場で行う活動を裏からサポートする役割を持っています。現場でどのようにプログラムが実施されていて、どのような重要な関係者がいて、どのような現場特有の課題があるのか等、現場スタッフの立場に立って考えることが少しでもできると、現場へのサポートが効果的にできると思います。また、現場は受益者に近い活動ができるので、日々活動意義を再確認できて自身のモチベーションにも繋がります。
最後に、やはり言語力はすごく重要です。国連に入ると、そのレベルの高さを感じます。私はオランダからの帰国子女ではあるのですが、現地では日本人学校に通っていたため、英語があまり話せませんでした。そのため、英語は本当に勉強しました。 今でもまだまだ力不足だなと感じることもあります。国連では、英語だけでなくスペイン語やフランス語が当たり前のように話されている世界なので、やはり英語に加え、もう一言語勉強していると有利になると思います。
UNICEFで働くことを目指す若者・社会人へメッセージをお願いします 。
私は今まで様々な仕事をしてきましたが、UNICEFが一番楽しい職場だなと感じています。UNICEFには、多様な経験やスキルを持つ人が多く、かなりレベルの高い人材が揃っている組織だと思いますし、問題に対するアプローチの結果や成果が見えやすい活動を行っているので、仕事に対しても面白味をとても感じます。
ボリビアの国連常駐調整官事務所で勤務していた際は、様々な国連機関と企業パートナーシップに関する仕事を通して連携していたのですが、その中でもUNICEFの活動は一際輝いていました。特にUNICEF は、企業連携のシステム、ポリシー、リスクマネジメントが整っている組織だなというのが印象的でした。企業パートナーシップの世界で今後活躍したいと考えている人には、とても魅力的な組織だと私は思っています。
私は国連職員として働くまでに、7回ほどJPOの試験を受けました。周りには、様々な分野で山のように経験を積んでいる方も多く、長く険しい道だと思いますが、絶対にあきらめないで何度も挑戦して頑張ってほしいと思います。それぐらいの価値がある職場だと思いますし、成果が見えた時に本当にやりがいを感じる仕事なので、ぜひ目指して頂けると嬉しいです。
インタビュー後記(インターン 吉新 主道)
国連職員として働くために数々のキャリアを積まれてきたビルギッチさん。経験豊富な人材が世界から集まる大変競争率の高い国連機関で働くことを目指す私にとって、「絶対にあきらめないで何度も頑張ってほしいと思います。」というお言葉に勇気と希望を頂きました。