第55回 ネパール事務所 横手春子
保健担当官
日本の医療現場にて看護師として勤務後、JICA青年海外協力隊としてモロッコにて活動。英国の大学院にて国際公衆衛生学修士号を取得。UNICEFタンザニア事務所保健部にてインターンシップを経験し、2022年3月よりジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)制度にて現職。

UNICEFネパール事務所のブログに掲載された、横手春子保健担当官の記事をお届けします。記事では、日本政府支援によって実施された新型コロナウイルス感染症ワクチン等をネパールの人々に届けるための活動の様子が、日本人UNICEF職員の視点から紹介されています。またこちらのページでは、横手保健担当官のこれまでのキャリアや、国際協力の道を目指す若者へのメッセージも併せて紹介します。
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ワクチンを低温で輸送・管理する「コールドチェーン」とは、単に機材や設備だけを指すのではありません。「ワクチンを最も必要とされている場所へ安全に届ける」という共通の目標に向かって尽力する人々のチェーン(つながり)でもあるのです。
「団結は力なり。チームワークと協力があれば、素晴らしいことを成し遂げられる」――マティ・ステパネク
2022年3月、私がUNICEFネパール事務所の保健チームで最初に任された仕事の一つは、日本政府支援によるコールドチェーン事業に関する報告業務でした。
日本政府とUNICEFは、ネパールのコールドチェーン能力強化、及び保健システム全体の強化について、長年にわたり協力してきました。この度UNICEFを通じて行われたネパールに対する資金協力は、この長年の協力関係を土台に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックという特殊な状況下において、ワクチンの展開を支援するために実施されました。この資金協力は、ウォークイン冷蔵室9台、太陽光発電式ワクチン用冷蔵庫38台、長距離用ワクチン運搬箱1,109個、クーラーボックス53個の供与等を含み、また、UNICEFはこれらのコールドチェーン機材の運搬・設置や、機材を管理・使用する医療・保健スタッフへの研修等も併せて支援しました。

2022年7月、私はコールドチェーン機材が導入された現場を訪れるため、UNICEFの同僚とともにネパールの首都カトマンズから、マデシ州の州都ジャナクプール市へ向かいました。マデシ州は、パンデミックの際に様々な課題に直面しましたが、その大きな要因の一つは、コールドチェーン能力の限界にありました。COVID-19や、それによって引き起こされた定期予防接種の中断、その上に、COVID-19ワクチンの保管と配布という新たな任務が加わり、地域の保健システムに突然、大きな負荷がかかったのです。また、2022年以前は、マデシ州はCOVID-19ワクチンの保管を、他の州や首都にある中央倉庫に頼らざるを得ない状況でした。
「日本の支援で導入されたコールドチェーン機材は、非常に歓迎されている」そう話してくれたのは、市内にある州保健物流管理センターのワクチン倉庫で働くコールドチェーン担当官たちでした。この倉庫のウォークイン冷蔵室はとても広く清潔で、私たちの訪問時には、様々な定期予防接種用のワクチンが保管されていました。冷蔵室内の温度は、現場での直接確認に加え、携帯アプリを通して遠隔モニタリングができる電子温度監視システムも活用して、注意深く管理されていました。この他にも、太陽光発電式ワクチン用冷蔵庫や、ワクチン運搬箱、クーラーボックスなどが、各地のより小規模なワクチン倉庫や保健施設に供給され、ワクチンをコミュニティへ届けるコールドチェーンが維持されていました。

コールドチェーン事業を支援したUNICEFのスタッフとして、また、一人の日本人として、ネパールの一地域で日本支援のコールドチェーン機材が有効活用されているという事実に、深く感動しました。私たち一人ひとりが、多様でありながら、それぞれ等しく重要な役割を果たした結果、つまり、団結が生み出す力がこのコールドチェーンに表れていました。日本政府と日本の皆さまからは、適切なタイミングで必要とされているコールドチェーン機材をご提供いただきました。UNICEFスタッフは、ネパール政府と連携してその機材が活用される場所へ運搬し、設置しました。
また、コールドチェーンの技術者、物流担当者、コミュニティで活動する保健ボランティア、そしてもちろん、毎日機材を使用してワクチン接種を行っている医療・保健スタッフたちの貢献なくしては、こうした努力も実ることはありませんでした。
このことは、私たちが知る「コールドチェーン」とは、単に機材や設備だけを指すのではなく、「ワクチンを最も必要とされている場所へ安全に届ける」という一つの目標に向かってひたむきに働く人々のチェーン(つながり)でもあることを如実に物語っているのです。
UNICEFネパール事務所のスタッフを代表し、ネパールの保健システム強化に対する日本政府の温かいご支援に深く感謝申し上げます。また、ネパール国内のすべての州、郡、コミュニティにおいて、コールドチェーンの維持に携わっているたくさんの方々の素晴らしい努力にも感謝いたします。このコールドチェーン事業の成功に続いて、ネパールだけでなく他国においても、多くの良い事例が生まれることを期待しています。今後も多くの人が手を携えていくことで、予防接種システムを含む保健システムをより強化し、たくさんの子どもたちや家族の生活をより良いものにすることができます。

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横手春子保健担当官に、これまでのキャリアやUNICEFで働くことを目指す若者へのメッセージを聞きました。
これまでのキャリアと、UNICEF で働こうと思ったきっかけを教えてください。
10代の頃から、日本や世界の子どもたちが直面する様々な不公平に問題意識を持つようになり、自分には何ができるかを考えた結果、人々の健康を支えるための看護の道に進むことを決めました。看護師資格を取得してからは、まずは看護師としてスキルを高めようと思い、総合病院の小児科病棟にて3年間勤務しました。その後は、ケニアの都市貧困地域に住む障がいを持つ子どもたちの支援や、インドでのマラリア治療法の研究、モロッコの県・コミュニティレベルの母子保健改善活動など様々な経験を積みました。これらの経験から、国レベルとコミュニティレベルとを繋ぐ、サブナショナルレベルの保健マネジメントに強い関心を持つようになり、この分野に強い英国のリバプール熱帯医学校の修士課程へ進学しました。
修士取得後、低中所得国の保健システム強化に携われる仕事をと考えていたところ、UNICEFがこの分野に力を入れ始めたという情報を得て、UNICEFで働くことに興味を持ちました。そして、日本ユニセフ協会が運営するプログラムを通じて、UNICEFタンザニア事務所でのインターンシップを行いました。これはちょうど2020年から2021年のCOVID-19が世界中で猛威を振るっていた時期であり、リモートでの勤務となりました。現地に赴くことは叶いませんでしたが、サブナショナルレベルの保健システム強化という、まさに自身の関心のコアであるプロジェクトに携わることができ、大変やりがいをもって働くことができました。このインターンシップの中で、UNICEFがどのように国、サブナショナル、コミュニティの3つのレベルとの良好な関係性を築いてきたか、そしてその関係性を活かして保健システム改善に取り組んでいるかということを認識し、UNICEFで働きたいという動機の強い裏付けを得ました。
UNICEFで働くことを目指す若者・社会人へメッセージをお願いします 。
お伝えしたいことは、幅広く様々なことにチャレンジしてみるのも一つの手段ということです。必ずしも最短距離が最善とは限りません。私はUNICEFに入るまでに様々な組織、地域にて活動してきました。上に記載したのは私のキャリアの一部で、他にも、看護系オンライン教材開発や、リベリアの人権保護関連のお仕事に携わったこともあります。自分の価値観に通ずる成長の機会があれば、喜んで飛び込んでいました。幅広い経験を積んできたからこそ、自分がやりたいことは何なのかということがより明確になり、それが実現できるUNICEFで働けることを本当に嬉しく思います。また、その経験の中で培ってきた能力が、今の仕事に活きています。無駄になることは何一つとしてありません。視野を広く持ち、様々なことに取り組んでみてください。