第78回 ケニア事務所 メザーズ惠理
子どもの保護チーフ
大学院で修士号を取得後、日本や欧米のNGOで災害緊急支援に従事。PKOの国連ボランティアとしてスーダンに派遣。2008年にJPO制度を通じてUNICEFシエラレオネ事務所に入職。南アジア地域事務所、アジア・太平洋地域事務所、東部・南部アフリカ地域事務所を経て2023年から現職。
現在、どのような仕事をしていますか?
UNICEFケニア事務所の子どもの保護のプログラムの管理をしています。子どもの保護は、暴力や搾取、虐待から子どもたちを守ることで、子どもの健康的な発達に不可欠です。児童労働、子どもの結婚、女性器の一部を切除する(FGM:Female Genital Mutilation)等もプログラムの対象です。最新の調査によれば、回答者の約50パーセント近くが子どもの頃に、身体的、精神的、性的を含む、何かしらの暴力を受けた経験があると答えています。また、15パーセントの女性が、FGMを経験しています。FGMは、全国的にはここ数十年で大分減ってきているのですが、地域率差が大きく、中には80パーセント以上の女性がFGMを受けている地域もあります。ケニアは低中所得国で政府には比較的力がありますが、子どもとその家族へのサービスは不十分です。例えば、10人に1人の子どもが、実の親が生きていても、親と一緒に暮らしていません。様々な理由がありますが、一つは経済的に困窮して親せきの家に送られるというケースです。これはアフリカの助け合いの精神やコミュニティの強さを反映しているとも言えますが、それぞれの家庭で子どもの生存と発育を守ることができていないことの表れでもあります。
日々の仕事は多岐に渡ります。プログラムの内容は、社会福祉、司法分野、保健、教育等にまたがる子どもの保護の仕組みの強化のサポートです。具体的には、政策策定、人材(ソーシャルワーカーや警官、教員、ヘルスワーカー等)の能力強化のための研修制度作り、データシステムの強化、リサーチなどです。どの開発途上国でも軒並み問題なのが、子どもの保護分野の国家予算が非常に限られていることです。社会福祉省庁の子どもの保護の部署に充てられている予算は、全体の0.13パーセントしかありません。また、ケニアにはソーシャルワーカーが500人ほどいますが、絶対数が不足している上、活動予算がついておらず、交通費も電話代も自分たちで負担しています。政府の予算立てのプロセスにぴったり伴走しながら、適切な予算が得られるように支援しています。また、パートナー団体と協力して、人々の行動変革を促す活動も行っています。なるべく草の根で活動しているNGOや若者や女性団体などと連携することで、コミュニティに根差した活動ができるようにしています。
そして、チーフとしての1番大事な役割は資金繰りです。特にODAは減る方向にあり、開発援助業界には苦しい時代で、他団体だけでなく、UNICEFの部署間での競争も厳しいです。特に子どもの保護は後回しにされがちなので、組織の内外で常にアドボカシーをしています。子どもの保護チームは15人ほどスタッフがいるのですが、皆優秀で志が高く、楽しく一緒に働かせてもらっています。
これまでのキャリアについて教えてください。
日本の大学を卒業してからすぐ、開発途上国で役に立つような仕事がしたいと思い、イギリスの大学院に進学して国際関係論を学びました。大学院修了後は日本の小規模なNGOや欧米のNGOなどで主に災害緊急支援の活動に携わりました。その後、外務省の「平和構築分野の人材育成のためのパイロット事業」に第1期生として参加し、その後スーダンで国連平和維持活動(PKO)の国連ボランティアとして働きました。キャリア構築と就職活動の選択肢はあまり多くはありませんでしたが、その中の一つとしてJPO(ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー)試験を受けました。その後、JPOとしてUNICEFシエラレオネ事務所で子どもの保護担当官として勤務を始めました。一年半、夫のキャリアを優先するために離職していますが、そろそろUNICEFで勤め始めて15年ほどになります。
これまでに特に印象に残っている出来事や、日々の原動力となっていることはありますか?
子どもの保護は、暴力、虐待、搾取を扱っており、喜べるような出来事はあまり思い浮かばないというのが正直な気持ちです。ケニアに限らず、トイレしかない狭い拘留所に長期間拘留されている若者、身寄りがなく路上で生活し性的搾取を頻繁に受けながら食べ物をもらい生き延びる14歳の少女、それを把握していながら動かない行政等々、例を挙げれば枚挙にいとまはありません。また、子どもの保護はすぐに成果が見られず、分野として発達途中でデータが取れないことも多いため、成果が測りにくいというのもあります。そのような中で、目に見える成果や人からの評価だけを過度に期待すると振り回されてしまうので、業務計画書が良く書けたなど、小さなことに喜びを感じながら仕事をするようにしています。ただし、子どもの保護はプログラムになってまだ20年ほどの若い分野なので、既存の指針を教科書のように倣って行っても成果は出ないと感じていて、インパクトの期待できる活動にチームのエネルギーと資金を使うようにしています。
UNICEFにいて常に実感するのが、UNICEFへの信頼度の高さです。政府に限らず、パートナー団体、民間企業、コミュニティの人々などの面会の約束も取りやすいですし、UNICEFだから話に耳を傾けてくれる人もいます。これはUNICEF の何十年にもわたる活動に対する信頼度の裏付けで、職員が一丸となって守ってきたものでしょう。
国を超えての異動が多い国連の仕事ですが、ワークライフバランスをどのように保っていますか?
私には子どもが2人と保護センターから引き取った犬が2匹いますが、多少インフラが悪かったとしても、安全がある程度確保されている国ならば、子育ても犬を飼うのも、海外の方が断然楽だと思います。日本よりこれをしなくてはいけない、あれをしてはいけない、などのしがらみが少ないですし、ベビーシッターさんなどの助けを借りながら子育てと仕事を両立させている人も多いです。ナイロビは緑も多くて気候もいいので犬たちも幸せに暮らしています。ただ、子どもが大きくなって教育の質がより譲歩できなくなってきたり、離れて暮らす親のことが心配になってきたりすると、国を転々として仕事をすることがより大変になってきます。周りを見ると、高校生くらいの頃から、子どもの教育のために家族が離れて生活するケースも増えてきます。空気汚染も健康に大きく影響しますが、開発途上国の首都で空気がきれいなところは少ないです。新しい仕事を探す際には、上司を含む職場環境と大気汚染度をまず確認します。
先のことはわかりませんが、これまで家族と同居しながら働き続けてこられて、本当に恵まれていると思います。これは、家族の協力の賜物で、特にフリーランスで仕事ができる夫がほとんど私についてきてくれたおかげです。同僚には、単身赴任で厳しい現場で赴任するなど、何かしらの犠牲を払っている人もたくさんおり、特に昇進を目指すとその必要が出てくると感じます。
UNICEFの仕事に関心がある若い世代へのメッセージをお願いします。
やってみたいと思うことは何でもチャレンジするといいと思います。そこから道が開けていくものです。また、私自身は大学や大学院で国際関係論などの横断的な勉強をしましたが、何か特化した分野の勉強すればよかったと後悔してます。専門的な学問を学べば、私はエコノミストです、ソーシャルワーカーです、医師です、などと、強い専門性を打ち出すことができます。若い世代の皆さんには、自分の関心のある分野で専門性とスキルを身に付けていくことをお勧めしたいです。あと、競争が激しくなってきているので、英語に加えて、第2外国語が出来ると有利だと思います。
若い世代と言っても年代ごとに雰囲気が違うように感じていますが、とにかく私の世代にはない多様な価値観があると思います。UNICEFは国連組織の中でも比較的足腰のしっかりした団体だと思いますが、国連のあり方、さらには援助そのものには変革が必要です。若い世代には、ある組織や特定の業界に縛られることなく、社会や地球と関わっていって変化を起こして欲しいと期待しています。